研究課題/領域番号 |
15H06912
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
徐 ユイ 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (10757678)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 磁気共鳴イメージング / 造影剤 / ガドリニウム / 人工多能性幹細胞 / 細胞トラッキング |
研究実績の概要 |
自然回復できない皮膚組織や歯周組織に足場材料を利用して、細胞を移植して修復する研究が進み、近年、自己iPS細胞等の移植による再生医療の臨床研究も活発に検討されている。採取した幹細胞を極めて低侵襲な手術で、直接患者に注入する治療法であるが、移植した細胞の生死の解明は困難である。移植した細胞の残存率を解明するため、磁気共鳴イメージング(MRI)を利用して細胞を追跡する手法は、光学的トラッキングと比較して、観察深度と分解能において有利である。我々の研究室では、ポリビニルアルコール (PVA)を用いて、MRI造影剤の研究を進め、間葉系幹細胞のin vivo細胞追跡に成功し、移植細胞が死滅したことにより、造影剤が細胞外に漏洩して消失することを実証した(Contrast Media Mol. Imaging (2010),5,309)。また、デキストラン-ガドリニウム(Dex-Gd)を合成して血管内皮前駆細胞に標識して、下肢虚血モデルのラットに移植し、組織の再生に加えて生着率と細胞遊走挙動;さらに、ガドリニウムの排泄量により、移植細胞の生死を定量的に追跡できることを示した(Biomaterials(2012), 33, 2439)。本研究では、分岐構造を持つ4arm、8armあるいはデンドロンのポリエチレングリコール(PEG)を用いて水溶性高分子MRI造影剤を合成した。合成した分岐構造の水溶性高分子MRI造影剤とリニア構造の水溶性高分子MRI造影剤を比較し、分岐構造が造影効果に与える影響を評価し、造影効率の向上を目指した。さらに、エレクトロポレーション法により未分化人工多能性幹細胞(iPS細胞)内に造影剤を導入し、性能を維持できる細胞をMRIで可視化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の実験では、分岐構造を持つ4arm、8armあるいはデンドロンのポリエチレングリコール(PEG)を用いて水溶性高分子 MRI 造影剤を合成した。NMRによる緩和速度測定の結果では、8-arm PEG-Gdの縦緩和能(r1)が最も大きく、4-arm、Linear、Dendron PEG-Gdのr1は非常に小さく、分岐構造PEG造影剤はリニア構造より緩和能が大きいことが分かった。また、横緩和能(r2)も分岐性の増大に伴って上昇した。陽性造影剤の指標として用いられるr2/r1値が8-arm PEG-GdとDendron PEG-Gdで1に近く、陽性造影剤として有用であることが示された。さらに、MRI撮像において、8-arm PEG-Gdの輝度が、市販の造影剤よりも高く、優れた造影効率であることが確認された。未分化性を示すGFPのFACS測定結果により、PEG-TRITC-Gdによる標識前後でのGFP発現頻度に変化はなく、増殖とコロニー形成にも変化がないことから、造影剤もエレクトロポレーションもiPS細胞の未分化状態には影響を及ぼさないことが示された。PEG-TRITC-Gd濃度が低い場合、エレクトロポレーションにより導入効率あ5倍程度に上昇したが、高濃度の場合には非特異的な導入量が上昇した。これは、合成過程で残存するアミノ基および蛍光解析するために導入したTRITC の正電荷に基づく非特異的細胞表面吸着が影響していると考えられ、その改善を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
造影効果が高いPEG-ガドリニウムをテトラメチルローダミン(TRITC)でiPS細胞から分化した心筋細胞を標識し、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡で造影剤が細胞質に局在することを観察する。また、細胞死に伴うPEG-ガドリニウムの漏出を定量化し、細胞の生死を観察する。 In vivoでの細胞生着率や生存率、及び、分布と時間と治療効果との関係を解明するために、マウス心筋梗塞モデルへの細胞移植実験を行う。合成した水溶性高分子MRI造影剤PEG-ガドリニウムをiPS細胞から分化した心筋細胞に導入し、ラット心筋梗塞モデルを利用して治療実験を行う。再生した心筋組織は水溶性高分子MRI造影剤PEG-ガドリニウムで追跡可能であり、in vivoで細胞の生死を観察できる。また、移植細胞死滅による、造影剤の排泄、代謝経路を観察し、排泄物中のガドリニウム量を誘導結合プラズマ質量分析計(IPC-MS)により直接定量する。ラットのガドリニウムの排泄量により、移植細胞の生着率を定量的追跡でき、細胞生死をトラッキングできる最適な水溶性高分子MRI造影剤を評価する。
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