これまで、我々は炎症性腸疾患の患者血清において、Leucine-rich α-2 glycoprotein (LRG)値が健常人に比べ有意に増加していること、また、病態に応じて増減する優れたバイオマーカーであることを報告してきたが、LRGの機能については不明であった。そこで炎症性腸疾患のマウスモデルであるデキストラン硫酸ナトリウム腸炎を野生型マウスとLRG KOマウスに誘導し、粘膜固有層におけるイベントを解析した。腸粘膜のDNAマイクロarray解析によってインフラマソームの1種であるNLRP3やインフラマソームの下流であるIL-18の発現が野生型マウスに比べLRGノックアウトマウスで低下していた。したがって、LRGはインフラマソームを介して粘膜固有層マクロファージからの炎症性サイトカイン産生を増強するのではないかと考えた。しかし、in vitro解析ではLRGによるマクロファージからのIL-1βやIL-18といったインフラマソームに関連した炎症性サイトカインの産生増強作用は確認できなかった。DSSを投与したマウスの腸管を経時的に観察したところ、野生型マウスに比べLRGノックアウトマウスで好中球やマクロファージの炎症部位への浸潤が抑制された。また、血球接着分子であるエンドグリンの発現がLRGノックアウトマウスで低下していた。血管内皮細胞株を用いた解析によってLRGはTGFβ-Smad1シグナルを増強してエンドグリンの発現を亢進することが明らかとなった。 以上のことから、LRGは血管内皮におけるエンドグリンの発現を増強することで血管内皮細胞への炎症性細胞の接着を促し、炎症部位への細胞浸潤を亢進していることが示唆された。 今回の研究課題の成果はLRGのIBD病態への関与解明の一役を担うのではないかと考えられる。
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