研究課題
Li2SとP2S5を混合させたLi2S-P2S5系ガラスは高いイオン伝導率を示し、材料の組成(混合比率)ならびに構造の乱れ具合によってリチウムイオン伝導率が異なる。その骨格構造をラマン分光実験により定量的に評価し、PS4とP2S7のアニオンに加え、P2S6のアニオン(つまりSが欠損)も含まれることが分かった。さらに、放射光X線・中性子PDF解析による原子配列に関する実験情報を揃えた。本研究では、これらの実験データを基に、第一原理計算と逆モンテカルロ計算を行い、ラマン分光とPDF解析の実験データを忠実に再現するガラスの3次元構造を構築し、その構造と電子状態を明らかにした。構築した硫化物ガラスの3次元構造モデル中では、各骨格構造ユニットとLiイオンはS原子を共有してつながっているため、そのつながり方を調べた結果、リチウムイオン濃度が増えるにつれ辺共有の割合が増加することを明らかにした。硫化物ガラスは酸化物ガラスよりも分極性が高く、骨格構造ユニットとLiイオンがS原子を辺共有することによりリチウムイオンはその分極性の影響を受けやすくなると考えられる。分極性が高いガラス材料ではキャリアイオンの拡散が向上するため、辺共有の多いLi2S(75%)-P2S5(25%)の組成ではリチウムイオンはより動きやすいことを明らかにした。さらに、構築した3次元構造モデルの電子状態を詳細に解析し、架橋S原子を持つP2S7ユニットはPS4とP2S6ユニットよりリチウムイオンを引きつけやすく、リチウムイオンをトラップしている可能性を示した。当該研究の内容について、Sci. Rep.誌へ投稿し受理された。
2: おおむね順調に進展している
硫化物ガラス電解質の構造解析にて、複雑なガラス構造とリチウムイオン伝導の相関性に関する新しい知見が得られている。
SPring-8のBL04B2の大型二軸回折計装置にてラマン分光測定を可能とし、電気化学反応に対応したランダム系電解質の原子配列情報と分子振動情報の同時計測が可能となる環境を整える。しかし、申請者所属施設のラマン分光装置の対物レンズは作動距離が5mm以下と非常に短いため、放射光の光路遮断及びX線回折のバックグラウンド上昇が懸念される。そこで、作動距離の長い対物レンズへ変更しこの問題を解決する。今後はまず構造が既知のSiO2ガラスを用いて、ラマン分光装置の調整、BL04B2のPDF解析によって同時計測の性能評価まで行う。一方、硫化物ガラス電解質の構造解析にて、構造とリチウムイオン伝導の相関性について新しい知見が得られている。この理解を深めるために、ガラス電解質を再結晶化させたガラスセラミックスと呼ばれる状態の構造について、電子状態を考慮した構造構築が必要である。第一原理計算による構造最適化環境も整備し、リチウムイオンの高いイオン伝導性とランダム系構造の相関の理解に重要な情報を引き出すことに注力する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 21302
10.1038/srep21302
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2016/160219/