研究課題/領域番号 |
15J00021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 博崇 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 悪性脳腫瘍 / ウイルス療法 / 単純ヘルペスウイルスⅠ型 / G47Δ |
研究実績の概要 |
悪性神経膠腫は手術,化学療法,放射線治療による集学的治療が行わてれいるが,ここ数十年での予後の改善は殆どない.所属研究室で開発された第三世代単純ヘルペスウイルス1型(G47Δ)は癌特異的なウイルス複製能を備え,臨床試験で安全性が示された後,現在膠芽腫に対する治験が行われている.膠芽腫に対するG47Δ投与の際には免疫反応によると思われる腫瘍周囲での脳浮腫の発生を認め,時に神経症状の増悪などの危険性を伴う.今回この浮腫を抑える目的で,抗体産生型G47Δの作製および有効性の評価を計画した.平成27年度は目的とするウイルスの作製および基本的な評価実験を行った.まず目的とする抗体をエンコードするcDNAを作製し,BACおよびリコンビナーゼを用いてG47Δに導入することで,抗体発現型G47Δを作製した.作製したG47Δの構造確認はサザンブロット法を用いて行った.作製したウイルスから産生される抗体の発現・機能をウイルス感染細胞上清を用いて確認した.さらにin vitroではVero細胞およびヒト神経膠腫の代表的細胞株であるU87MGの細胞におけるウイルス複製能および殺細胞効果の評価を行い,親株ウイルスであるT-01と差がないことを確認した.in vivoではU87MGを用いたマウス頭蓋内腫瘍モデルおよび皮下腫瘍モデルを作製し,それぞれウイルス投与による生存延長効果および腫瘍増大抑制効果の評価を行い,頭蓋内腫瘍モデルに関してはT-01と比較して有意な生存延長効果は認めなかったが,皮下腫瘍に関しては有意な腫瘍増大抑制効果を認めた.また,神経膠芽腫患者の手術検体から当研究室で樹立した神経膠腫幹細胞株であるTGSを用いて頭蓋内腫瘍モデルを作製し,ウイルス投与による生存延長効果の検討を行い,T-01と比較して有意に生存を延長する結果が得られ,がん幹細胞に対する有効性を示唆する結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規ウイルスの作製には約4ヶ月を要したものの,目的とするウイルスを作製することに成功した.また発現抗体に関する構造および機能の確認を行い,目的とする構造および機能を持つことを確認できた.しかし,この構造確認のために行ったウエスタンブロット法では,還元剤を用いる通常のSDS-PAGEは特に問題なかったものの,還元剤を用いないNative-PAGEに関しては抗体を二量体のまま検出する必要があり,抗体の安定性を保った上での電気泳動による分離に非常に苦労した. 単純ヘルペスウイルスに遺伝子組換えを行うことで複製能の低下することがあることが言われているが,今回作製したウイルスではin vitroでの評価において親株ウイルスと同等であることが確認できた. マウス頭蓋内腫瘍モデルを始めとしてマウスモデルの安定した作製には高度の技術が必要と考えられるが,これに関しても実験を繰り返すことによって比較的早期に技術の獲得ができたと思われた. 今回神経膠腫幹細胞株として評価に用いたTGSは浮遊系細胞であり,in vitroおよびin vivoでの取り扱いが通常の細胞株と異なるが,特に問題なく実験を進めることができた. 以上のように,途中試行錯誤が必要な実験もあったが,改善策を見出しつつ実験を繰り返すことによって結果を得ており,全体としては順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,ウイルス投与後の脳浮腫に対する新規ウイルスの効果検討に関して,動物用MRIを経時的に撮像して評価する予定である.マウスのMRI撮像に関しては撮像中の麻酔維持や造影剤の投与,また画像評価のためには腫瘍の形状が比較的均一であることが必要であり,さらなる手技の習得が必要と考えられる.このMRI実験での結果を踏まえ,ウイルス感染後の浮腫発生のメカニズムに関するデータの収集を行う.具体的にはマウス頭蓋内腫瘍モデルに対するウイルス投与後に検体を採取し,リアルタイムPCRやELISAによって,どの分子が浮腫発生に関与しているかを評価する. また,発現された抗体が腫瘍局所にとどまるか,あるいは体循環によって全身に分布するかは今後このウイルスが実用化される段階での安全性の観点からは評価が必要であると考えられる. 膠芽腫は強い血管増生を伴う腫瘍であること,ウイルス投与によってマクロファージなどの免疫細胞の活性化が起こることから,マウス頭蓋内腫瘍モデルに対して複数の抗体を用いた免疫組織染色を行うことによって組織学的な評価を行い,新規ウイルスが血管増生やマクロファージの活性化に関してどのような変化を起こすかを評価していく方針である.さらに組織学的検討で得られた結果を元に,フローサイトメトリーによる解析も行うことで,組織学的変化の定量評価も行う予定である.
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