社会相互作用の基盤となるメカニズムを探るため、「表情模倣」という現象に着目した。成人や児童では他者の表情を無意識的に模倣することが知られており、時には目には見えないような非常に微細な表情筋の模倣反応が、他者の感情状態を理解するのに役立っていると考えられている。今年度は、乳児を対象に表情模倣の初期発達について調べた。自然状態の他者の表情・情動に対していくらか弁別ができるようになると言われている生後4~5か月の乳児を対象に、他者の情動表出に対する乳児の表情筋の活動を筋電図計により計測・分析した。その結果、動的な視聴覚表情(表情と音声)を呈示した際に、対応する表情筋(泣き刺激に対して眉毛の筋肉、笑い刺激に対して頬の筋肉)の活動の上昇が見られた。つまり、4~5か月齢の乳児は他者の表情に対して自発的な模倣反応を示すことが明らかになった。一方、成人や児童で知られている結果とは異なり、視覚(表情)または聴覚(音声)のみの情動刺激に対しては表情筋の活動を示さなかった。これらの結果から、表情模倣は自然状態の刺激(表情と音声がそろっている状態)に対しては遅くても5か月時点で出現し始め、視覚のみ・聴覚のみの刺激に対してはその後の発達段階で獲得され得るだろうことが示唆された。この結果は、乳児の表情認知能力におけるモダリティに応じた発達過程と一致しており、表情模倣と表情認知は生後の早い段階で相互的に発達している可能性が示唆された。
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