低温刺激により誘導された可塑的な色模様変化が次第に次世代に伝わるように遺伝的に固定されたと考えられるヤマトシジミ(鱗翅目、シジミチョウ科)の北限個体の進化機構を解明するため、平成28年度では前年度に引き続き、ヤマトシジミ本土亜種を用いて以下2つの実験を行った。 《1.色模様変化が配偶行動に及ぼす影響に関して》色模様変化雌(低温処理により作出)が疑似色模様変化雄(ペイントにより作成)と非色模様変化雄(正常型)のどちらとより多く交尾するか確認したところ、交尾の成功比率は「疑似色模様変化雄:非色模様変化雄=2:1」となり、適合度検定では有意傾向となった。疑似色模様変化個体の再現度を、紫外線写真と紫外線可視分光光度計を用いて近紫外線領域においても調べたところ、本物の色模様変化雄を充分に再現できていることが確認できた。非色模様変化雌の交尾の成功比率が「疑似色模様変化雄:非色模様変化雄=1:1」となっていた前年度の実験結果を考慮に入れると、変化した色模様自体に何かしらの機能があるのかもしれない。しかし一方で、非色模様変化雌の交尾の成功比率が「色模様変化雄:非色模様変化雄=1:5」という結果も今年度得ており、この結果も考慮すると、実際は模様の変化は配偶者選択を左右するほど重要な要素ではないのかもしれない。以上の結果を勘案すると、色模様変化個体同士、非色模様変化個体同士で頻繁に交配している可能性が示され、環境変化が色模様進化を駆動する可能性が支持された。 《2.色模様変化を引き起こす原因遺伝子の特定》蛹の前翅1枚から解析に十分な量のTotal RNAが抽出されているが、予算の関係上、遺伝子発現解析を行うことが困難であった。しかし、別の研究機関と協力して、色模様変化に関わる遺伝子をRNA-seq等で特定する方向で既に話が進んでいるため、抽出済みのRNAを今後の実験に活用していく予定である。
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