本研究の目的は,種間交雑が霊長類の顔面形態の多様性進化に与える影響を評価することにある.加えて,交雑によるゲノムの混合を利用することで,顔面形態の種間差に関連する遺伝子多型を探索し,その分子進化プロセスを明らかにすることを目的とする.これらを念頭に本年度は,在来種ニホンザルと外来種タイワンザルの種間交雑群を対象に,ゲノムワイドな遺伝マーカーの探索と集団構造の推定を行った.交雑群に由来する約300個体を対象にRAD-Seq解析を行ったところ,9割以上の個体で一塩基多型(SNP)データが得えられた座位が3000以上となった.このうち種間分化している約350座位をもとに交雑指数と種間へテロ接合率を算出したところ,当交雑群には雑種第1代から複数代および戻し交雑による個体が混在することが示唆された.また本年度は,ゲノムデータと対応する骨格標本を対象に,CTとノギスを用いた形態データの取得を行った.今後,本年度に得られたデータをもとに,座位特異的な遺伝子型の偏り,交雑の進行に伴う形態の変化,個々の座位の遺伝子型と形態変異との関連を明らかにしていく予定である.
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