研究課題/領域番号 |
15J00179
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
篠原 恵介 同志社大学, 心理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ラット / 忘却 / 空間記憶 / NMDA受容体 / 海馬 |
研究実績の概要 |
NMDA型グルタミン酸受容体(以下NMDA受容体)は記憶獲得に重要とされるが、これまでの我々の研究では同種の受容体が既に獲得された記憶の忘却(保持の低下)においても関与する可能性を示唆する結果を示してきた。本年度は、ラットの水迷路課題を用いて、異なる種類のNMDA受容体サブユニット(GluN2A,GluN2B)の阻害が空間記憶の忘却に与える影響を検討した。その結果、空間記憶の忘却はGluN2Aサブユニット選択的阻害薬(NVP-AAM077)の投与によって抑制されること、その忘却抑制の効果は後に行った空間的逆転課題での成績(新奇空間位置の学習)を悪化させること、一方でサブユニット非選択的NMDA受容体阻害では逆転課題での成績の悪化が生じないことが示された。これらの結果は、GluN2Aサブユニットが空間記憶の忘却に関与することを示唆している。先行研究では、記憶想起によって生じる保持の脆弱化や消去といった現象にGluN2Bが関与するという結果が報告されてきた。これらの現象はいずれも阻害薬投与以前に獲得した記憶の低下に関係する現象であることから、これまでは忘却におけるGluN2Bの関与が間接的に示唆されてきた。しかしながら、先行研究と本研究の結果をまとめると、同じ記憶の低下であっても、ある種の操作によって誘発される記憶保持の低下(脆弱化,消去)と時間の経過によって生じる低下(忘却)とでは、関与するサブユニットの種類がそれぞれ異なることが明らかとなった。NMDA受容体はシナプス伝達効率の変化において重要とされ、また、活性するサブユニットの種類によってその変化の傾向が異なることがわかっている。そのため、本研究の結果は忘却を生じさせる生理学的機能を解明するにあたって重要な知見であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(平成27年度)は、申請書記載の『研究1: 獲得と忘却を調整するメカニズムの解明』に関する実験を遂行した。当初の計画では先行研究の知見から忘却にはGluN2Bサブユニットが特に関与するとする仮説を立てていたが、実際の結果はGluN2B選択的阻害による忘却抑制の効果は示されず、反対にGluN2Aサブユニットの関与を示唆する結果がみられた。これまで記憶保持の低下に関する他の諸現象(脆弱化、消去)を対象として示唆されてきたNMDA受容体サブユニットの役割とは大きく異なる画期的な知見であったことから、本年度中に得られた研究結果の一般性・再現性を確立する必要性を考え、そのための実験を計画し、次年度(28年度)に実施する予定である。本年度中に得られた成果は、国内外の学会(Society for Neuroscience、日本動物心理学会)で発表して議論を進めた上で、論文にまとめてBrain and Behavior誌に投稿している(現在審査中)。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べた通り、申請書記載の研究1において当初の仮説と相反する結果(GluN2A阻害による忘却抑制の効果)が示された。この結果の一般性・再現性を確立するため、保持期間の長さの異なる条件での検討や異なる種類での記憶課題を用いた実験を計画しており、次年度(平成28年度)においてそれを実施する予定である。また、GluN2A選択的阻害と非選択的なNMDA受容体阻害ではいずれも忘却抑制の効果が示されたものの、後の空間的逆転課題ではそれぞれ異なる成績を示すといった興味深い現象も示された。この知見を発展させるため、GluN2A選択的阻害と非選択的阻害との傾向の違いをより明確に検討するための実験も計画し、実施する予定である。
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