研究課題/領域番号 |
15J00204
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
杉山 真季子 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ビスフェノールA / 内分泌撹乱物質 / 核内受容体 / マウス |
研究実績の概要 |
ビスフェノールA(BPA)は、日常生活に広く用いられているポリカーボネートプラスチック製品の原料であるが、ごく低い濃度で特に胎児・乳幼児の生殖線系や脳神経系へ悪影響を及ぼすという「低用量効果」が懸念されている内分泌撹乱物質でもある。本研究では、生殖線系での核内受容体を介した「協働作用」が、脳神経系でも生じているのかを探索する。 本年度の研究では、BPAが結合し、活性が変化する核内受容体の探索を実施した。その結果、COUP-TF IIにBPAが弱く結合することが判明したが、その活性は変化しなかった。脳神経系核内受容体には、そもそもリガンドが未同定のものが多いため、BPA以外の化合物についても並行して試験を行っていた。そこで、TLXが9-cis-retinoic acidと弱く結合することが判明したが、これも活性を変化させないものであった。単独では活性が変化しなくとも、自発活性化型核内受容体との共発現によって活性の変化が見られるのではと考え、脳神経系に発現する自発活性化型受容体と共発現させ、レポーターアッセイを行った。その結果、TLXは転写抑制化型の核内受容体であるが、そもそも化合物の暴露無しで、ERRβもしくはERRγをある比率で共発現させたときのみ、TLXの基盤活性が下がるという、抑制活性の増強効果が判明した。 一方で、以前の研究でBPA食餌マウス脳内で発現量が変化していた神経ペプチドArginine Vasopressin(AVP)について、その配列を解析したところ、これまでに報告されていない新規なスプライスバリアントを発見した。そもそもコントロール群でオスとメスで異なるバリアントを発現しており、BPA食餌によって雌雄それぞれ発現パターンが変化していることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の計画はBPAと結合し、転写活性を示す脳神経系核内受容体の探索、協働作用を示す自発活性化型核内受容体の探索であった。BPAと結合する核内受容体として、COUP-TF IIを同定したが、転写活性を示さなかった点では進展としては不十分である。しかしながらリガンド未同定の核内受容体、TLXと9-cis-retinoic acidが結合することの同定のみならず、リガンド無しでも自発活性化型共発現によって活性に変化が生じることなど、新たな興味深い発見をしている。このことから、総合的に見るとおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、COUP-TF IIについても自発活性化型核内受容体の共発現によって活性に変化が起こるか、他にそのような組み合わせが有るのか、網羅的に解析する。 さらに、それによって同定された核内受容体系において、ホモダイマー化、コアクチベーターの有無など、核内受容体に必要な構造要因を検討する。並行して、同様の現象が脳神経系の培養細胞でも見られるのか、過剰発現するタンパク質が有るのかを調べる。そして過剰発現していたタンパク質が有れば、BPA食餌マウス脳内でも同様な現象が起こっているか、調べる。 また、BPAのシグナル毒性のメカニズムとして、DNAメチル化も注目されている。BPA食餌マウス脳内では神経ペプチド遺伝子の発現量が変化し、さらにバリアント発現様式が変化していることが判明したが、これがBPAのメチル基が無い、BPEを食餌したマウスではどのような結果が出るのかも解析する。これらの研究を進展させ、BPAの脳神経系へのシグナル毒性・低用量効果の分子メカニズム解明を目指す。
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