研究課題/領域番号 |
15J00261
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷 拓 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化物半導体 / 不純物ドーピング / 薄膜 |
研究実績の概要 |
1. 伝導性制御 固相反応法により作製したβ-Na(Ga1-xMx)O2(M=Be,Ti)について、200℃でCuClとともに真空中で加熱、および200℃のAgNO3-KNO3溶融塩中でイオン交換し、β-Cu(Ga1-xMx)O2およびβ-Ag(Ga1-xMx)O2を作製した。イオン交換後、Cu系ではBeがx<0.03、Tiがx<0.05においてβ相の単相が、Ag系ではTiがx<0.05においてβ相の単相が得られた。x=0.01の粉末試料を用いて焼結体を作製し電気的性質を評価した。Cu系はBe、Tiいずれをドープした場合もp型伝導を呈した。一方、Tiドープしたβ-AgGaO2はn型で室温で5×10-2 Scm-1の伝導度を呈した。このようにβ-AgGaO2では、β-NaFeO2型の三元系酸化物半導体で初めてキャリアドーピングに成功した。 2. 薄膜の作製 本研究では前駆体となるβ-NaGaO2薄膜をスパッタリング法により堆積し、そのイオン交換によりβ-CuGaO2とする方法を検討した。β-NaGaO2をターゲットとすると、スパッタリング法で容易にβ-NaGaO2薄膜が得られた。しかしながら、この薄膜をイオン交換して作製したβ-CuGaO2薄膜には、Na+→Cu+へのイオン交換処理による体積変化に由来する微細な亀裂が存在した。これは、得られた薄膜の配向方位が110および100方向であり、イオン交換によるそれらの方位の収縮が大きいことが原因と思われる。薄膜の配向性を制御するために、より粒子の運動エネルギーの小さい電子ビーム蒸着によりβ-NaGaO2薄膜の堆積を検討した。その結果、サファイアA面上に121配向したβ-NaGaO2薄膜を得ることが出来た。この膜の面内収縮率はスパッタ膜のそれに比べ小さいので、イオン交換による亀裂を生じることなくβ-CuGaO2薄膜が得られるものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初に計画していた通り、焼結体試料におけるβ-NaGaO2への不純物ドーピングとそのイオン交換による不純物ドープしたβ-CuGaO2およびβ-AgGaO2を作製することができた。さらにこれらのうちBeおよびTiをドープしたβ-CuGaO2で正孔キャリア濃度の増減による伝導度制御ができた。また、Tiをドープしたβ-AgGaO2では室温で5×10-2Scm-1のn型伝導を達成し、三元系酸化物では世界で初めての不純物ドープによるキャリア注入に成功した。 一方、β-CuGaO2薄膜の作製は、スパッタリング法を中心に試みた。β-NaGaO2を原料とした電子ビーム蒸着法により基板材料に依存した配向性制御を達成した。β-NaGaO2のイオン交換によりβ-CuGaO2薄膜とするためには、イオン交換時の面内方向での収縮の小さい方位とする必要があり、サファイアA面上への堆積で面内収縮率4.1%となる前駆体薄膜を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
伝導性制御において、Tiを1%ドープしたβ-CuGaO2はp型伝導であり、ノンドープの試料に比べて伝導度が一桁小さかった。このことは、Tiドープによって生成した電子がノンドープの状態で存在する正孔キャリアを補償し、n型伝導に近づいているためであると推察される。よって、さらに多量のTiを含む試料の伝導性の測定が必要となる。また、Beドープのβ-CuGaO2においては、熱処理を加えることによるキャリアの活性化を試みる。 一方でβ-NaGaO2薄膜の作製においては、電子ビーム蒸着法によってサファイアA面上に212配向膜を得た。しかしながら、薄膜の組成は堆積初期でNa0.86GaO2-δ、継続するとNa0.37GaO2-δのようにNaが大きく欠損しており、結晶の質の観点からこの薄膜は好ましくない。化学量論組成のβ-CuGaO2を得られなければ、不純物ドーピングの効果も不鮮明となるので、化学量論組成の前駆体β-NaGaO2薄膜を得ることは必須の課題である。スパッタリングや蒸着などのPVD方はこの目的に合わないことが明らかとなったので、今後はCVD法による前駆体β-NaGaO2薄膜の堆積を試みる。
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