本年度は研究課題の最終年度として、シロチョウの保有するGLS解毒に作用するNSPとその関連遺伝子であるMAの異種発現機能解析と、NSPの小進化に焦点をあてた集団遺伝学的な研究を行った。 NSPとMAの異種発現解析については、当初の予定通り2017年の9月から約3ヶ月、ドイツのMax Planck 化学生態学研究所で行った。NSPとMAを大腸菌において異所発現させ、リコンビナントタンパク質を作成し、そのGLS解毒活性を測定した。その結果、MAもGLSの解毒に作用している事を示す一定の成果を得た。今後再現性の確認も含めた実験を追加することで、各シロチョウ種の保有するNSP、MAの基質特異性と、食草選好性を絡めた議論が可能であると考えられる。MAの成果は論文として発表する。 NSPの小進化の研究においては、本年度はシロチョウ3種を用いた調査とシーケンスを行った。その結果、2種の野生種アブラナ科を用いるシロチョウについてはNSPの多様性が食草の多様性と相関する事を見いだした。RADseqを用いた解析の結果、この多様性の相関には、各個体群の遺伝的な背景は関与しない事が示されたため、NSPが用いる食草の多様性に応じた小進化的な動態をもっていることを示唆する結果となった。 この結果は、シロチョウがアブラナ科草本との相互作用のなかで、アブラナ科の保有するGLSの多様化を引き金として多様化した事を支持する結果と言え、解毒機構が植物の防御の変化に伴って敏感に変化する事を示した例としても非常に重要である。
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