研究実績の概要 |
本研究は、通時的には語彙項目(内容語)に属する動詞に由来し、文法項目(機能語)の前置詞へと文法化した現象である「動詞派生前置詞」の共時的・通時的記述を行うことを目的とする。以下、研究計画に記した (i) 個別事例の分析、(ii) 現象全般の包括的記述、に関し、今年度の研究実績を示す。 まず (i) に関して、共時的観点から、British National Corpus (BNC) のデータを用いて「除外」の意味を表す頻度の低い前置詞excluding, saving, barringをジャンル・レジスターとの関係に基づき分析した。これらの前置詞は、書き言葉において使用される傾向があり、文法化の程度が異なることを指摘した。通時的観点からは、Oxford English Dictionary (OED), Corpus of Contemporary English (COHA) のデータにより動詞派生前置詞barringの発達を分析した。barringの前置詞的用法はOEDの初例から観察されるが、ともに分詞に由来するconsidering, concerningと同じ文法化の経路を辿ったと仮定すれば、特に19世紀後半から20世紀前半の時期にかけて文法化が進行し、前置詞としての性質が強くなったと考察した。 次に (ii) に関しては、先行研究・辞書から収集した37例を対象に、Emonds (1976) の前置詞を識別するテスト(分裂文、強意の副詞rightとの共起可能性)による作例を行った。英語母語話者を対象とした容認度調査を実施し、動詞派生前置詞の前置詞性 (prepositionality) を算出した。結果、past, during, following, starting, regarding, according to, preceding, succeeding, including, pertaining toを除く27例は前置詞性が相対的に低いものと位置づけられた。また、前置詞性の分布から文法化の進行度に段階性がみられることを指摘した。さらに、空間的・時間的意味が前置詞としての典型性に関わる可能性があると考察を行った。 以上に加え、昨年(平成26年)度までに行った研究を論文化した。
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