本年度は、14・15世紀イングランドの王の宮廷における様々な技芸とそこに込められた王権思想のあり方について検討する研究計画の初年度である。この時期の中でも、特に1399年に生じる王朝の交代が重要な出来事であることや、その王権観について有益な研究の蓄積があることを踏まえ、リチャード二世(在位1377~99年)から重点的に調査を行うことに決定した。 本年度はまず、リチャード二世に関する研究文献および史料の収集と整理に努めた。先行研究の分析によって、特に論争の的となってきたリチャード二世の宮廷の文化的役割について検討を行った。また、史料については、本年度は11月下旬に数週間の渡英を行い、新たに英国公文書館でリチャード二世時代の財務府支出録 (Issue Rolls of Exchequer) を収集した。これによって、王がどのような費目に支出を行っているかを確認し、君主鑑をはじめとする叙述史料の検討とも合わせ、王が自らの王権のイメージをどのように確立し広めようとしたのかを考察することができると考えている。本年度は、この支出録の分析を終えることができなかったため、次年度も引き続き行っている。 また、修士論文までの考察の成果をもとに、中世後期イングランドの宮廷楽師の制度面を扱った論文を執筆し、本年度末に刊行した。
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