当該研究課題の第一年目として、実験圃場での操作実験と野外調査を行った。対象植物としてアブラナ科ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)の有毛型と無毛型を材料とした。 圃場では、ハクサンハタザオ約400個体を用い、有毛・無毛型の頻度とダイコンサルハムシ(Phaedon brassicae)の有無を操作することで、これらの2要因が植物の食害率と繁殖に与える影響を評価した。この結果、ハムシ存在下でのみ、有毛型と無毛型の間で少数派の繁殖が良くなることが明らかとなった。このことはハムシの存在が有毛・無毛型の二型の維持機構となることを意味している。 野外では、ハムシが出現している集団において、半径1mのプロットを複数設置し、有毛型と無毛型の個体群動態を継続して調査している。野外では、有毛型が少数派のときに食害率が低くなる傾向がみられた。今年度の結果を合わせた3年間の調査から、プロット内で少数派を占めていた型の頻度が中程度に復元することが明らかとなった。 さらに、近畿圏のハクサンハタザオ26集団を対象として、有毛型と無毛型の頻度と食害率の調査を行った。これらの地理的変異データを気候データと合わせて、各集団の有毛・無毛型の頻度に影響する要因を解析した。その結果、集団の平均食害率が高くなるほど無毛型の頻度が急激に低くなること、二型の頻度と気候条件には有意な関係はみられないことが明らかとなった。 以上により、ハクサンハタザオにおいて細毛の変異を形成する要因を、集団内と集団間の複数のスケールから検討することができた。これらの成果は、植物の防御形質における遺伝的多様性の維持機構を包括的に理解することに貢献するものと考えられる。
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