研究課題/領域番号 |
15J00413
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉永 司 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 空力音 / 乱流 / 大規模数値シミュレーション / 発音モデル / 歯茎摩擦音 |
研究実績の概要 |
本研究では,歯茎摩擦音/s/と/sh/の発話機構の違いを明らかにすることを目的としており,本年度は歯茎摩擦音/s/に着目して,口腔内で発生する音と空気の流れの関係性について調べた. ヒトによって異なる口腔形状から発生する音について議論するため,矩形流路を用いて単純化した口腔モデルを作製し,流体音響実験と数値シミュレーションを行った.実験では,モデルを3Dプリンタで成形し,コンプレッサにより呼気流量を流入させ,発音を再現した.この時,モデルから発生する音をマイクロフォン,モデル内の流速を熱線流速計により計測し,口腔形状の違いによる音と流れの特性の違いを明らかにした. シミュレーションでは,ラージエディーシミュレーションによりモデル内に発生するジェット流を解析し,実験により計測された流速の違いに関して議論した.また,流速の変動成分から発生する空力音源を可視化し,形状の違いが流れ場及び音源の発生へ与える影響を示し,音の発生メカニズムに関して議論した. 上記の実験とシミュレーションを組み合わせることにより,歯茎摩擦音/s/の発音には狭窄流路の位置が非常に重要であるという示唆が得られた.狭窄流路の位置によって,その後流に発生するジェット流の特性が変化し,音源の発生位置に影響を与える.音源が前歯上流において発生すると前歯上流の共鳴特性により一般的な歯茎摩擦音/s/に比べて低い周波数の音となり,上手く発音できないのに対し,音源が前歯下流において発生すると一般的な歯茎摩擦音/s/の周波数特性を持つ音となることが分った.今後はこのモデルを発展させ,/sh/の発音を再現するモデルを作製し,実験及びシミュレーションを行うことにより/s/と/sh/の違いを生み出している要素を明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,歯茎摩擦音/s/の発音を再現する口腔モデルを作製し,実験とシミュレーションを行うことで,口腔内に発生する流れ場,音源及び遠方音の関係性が明らかとなった.また,歯茎摩擦音/s/の口腔モデルを作製する過程で,様々な形状のモデルを試作しており,/s/と/sh/両者の発音が再現可能なモデルを作製する準備ができた. シミュレーションに関しては大規模乱流音場解析ソフトウェアFrontFlow/blueを用いることで歯茎摩擦音発音時のジェット流の渦を解像するための大規模計算が可能となり,得られた流れ場の大規模データから空力音源及び伝播音の計算を行った.この時,東京大学生産技術研究所のソフトウェア開発者より助言をいただき,実験結果と比較して十分な精度で計算できるようになった.本年度行った実験及びシミュレーションの手法は/sh/の発音にも有用であり,今後/s/と/sh/を比較するためのモデルを作製することにより,音の発生メカニズムの違いを解析できる. さらに,/s/と/sh/を発音し分けている舌の変形メカニズムを調べるため,舌筋線維の有限要素モデルを構築した.今後このモデルを発展させ,MRIにより計測した舌形状に対して逆問題解析手法を用いることにより,/s/と/sh/の口腔形状の違いを生み出す舌運動の要素を明らかにする.
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今後の研究の推進方策 |
まず,歯茎摩擦音/s/と/sh/両者の発音を再現できる口腔モデルを作製する.この時,モデルから発生する音が/s/か/sh/であるかを判断する指標として,音声学で用いられているスペクトル解析のパラメータを用いる.また,/s/と/sh/の間に明確な境界があるのかどうかを調べるため,舌を摸擬した形状をパラメトリックに動かすことができるモデルを作製し,口腔形状が徐々に/s/から/sh/へシフトする間に音及び流れ場がどのように変化するのかを調べる予定である. 次に,作製したモデルに対して今年度行った大規模数値シミュレーションを行うことにより,それぞれの口腔形状においてどのように音が発生しているのかを調べる.さらに,流れ場及び音源分布を可視化し,音響解析と組み合わせることにより,音が変化する原因を明らかにする. また,舌筋線維の有限要素モデルを用いて,/s/と/sh/の口腔形状の違いを生み出すのに必要な舌運動を明らかにする.この時,舌の変形シミュレーションと共に上顎や唇の形状を含めた音響シミュレーションを行うことで,舌筋力の大きさが発生する音に与える影響を明らかにする.
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