研究課題
2015年後期にX線施設SACLAにて行った、最適化したセットアップでの光子光子散乱実験の結果について論文発表した。この実験結果は概念実証実験の結果に比べて約3桁の感度向上を達成しており、X線域での最も厳しい断面積制限を課している。実験を発展させるために二つのアプローチを考え、研究を進めている。一つ目のアプローチは、X線よりも高エネルギーの光源を開発するというものである。光子光子散乱断面積は700keV付近にて最大値を取るため、1MeVの輝度の高い光源があれば感度が大幅に向上する。これを目指しイオンビームを用いた高エネルギー光発振技術について、岡山大学量子宇宙研究コアとの共同研究を行い、イオン源を用いた概念実証実験のシミュレーション/設計を行った。もう一つのアプローチは、固体結晶中の強電場を利用するというものである。電場を構成する仮想光子と実光子であるX線を衝突させると、理論から予言される未知粒子の一つであるAxion Like Particle(ALP)が存在する場合、ALPが生成される可能性がある。シリコンの単結晶にX線を入射すると結晶中の仮想光子とX線が散乱を起こし、反射方向にALPが生成される。この現象は光子光子散乱と同型の現象であり、入射X線の片方が仮想光子に、中間状態が実ALPに変わったものと解釈できる。遮光壁にてX線のみを遮蔽してALPを取り出して二枚目の単結晶に入射させると、ALPからX線への逆変換により信号X線が発生する。この方法では、他のALP探索地上実験に比べ高いエネルギー領域での探索実験が可能である。結晶によるALP生成を提唱した論文に対し、X線動力学的回折理論を利用した厳密な理論計算による補正を行った。現在、光子光子散乱実験にて使用したシリコン結晶を用いた概念実証実験の設計を行っている。
2: おおむね順調に進展している
X線域での最新の実験について論文発表を行った。この結果はX線域で最も厳しい制限を理論に課している。結晶中電場を用いた仮想光子とX線の衝突実験についてX線動力学的回折理論を用いた厳密な理論計算を進めており、実験の実現に向けたセットアップの設計を着実に行っている。
光子光子散乱に類似した実験セットアップにより、X線を用いた新粒子探索実験を進める。原子内の強電場中の仮想光子に外部からのX線が衝突すると、光子同士の散乱により理論予測されている未知粒子の一つであるALPが生成される可能性がある。このALPは電場中の仮想光子によりX線に逆変換することが可能であり、光子光子散乱にて片方の実光子を仮想光子に置き換え、中間状態を実ALPに置き換えた実験に対応する。シリコン単結晶内の強電場を用いた仮想光子とX線の散乱実験について設計を進め、X線施設にて実験を行う予定である。実験ではシリコン単結晶から削り出したチャンネルカットを用いてX線を回折させ、その入射角を掃引することで新粒子の探索を行う。高次光等のバックグラウンドの制御が実験感度を決定するためそれらの成分をX線全反射鏡により抑制し、X線がX線遮光壁を回りこみX線検出器に入射するのを防ぐ実験セットアップを設計する。これにより、先行するプリマコフ変換を利用したALP探索実験に比べ、高いエネルギー領域での探索が可能になると考えられる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Physics Letters B
巻: 763 ページ: 454-457
10.1016/j.physletb.2016.11.003