研究課題/領域番号 |
15J00516
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浜田 裕貴 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | パターン形成 / サイズ調節 / 濃度勾配 / 細胞形態 / 細胞系譜追跡 |
研究実績の概要 |
当年度はまず鳥類ニワトリ、両生類イベリアトゲイモリ、及び魚類ゼブラフィッシュの各初期発生前肢芽(魚類においては胸鰭芽)におけるソニックヘッジホッグ遺伝子(以下Shh)及びその下流遺伝子の発現領域をin situハイブリダイゼーション方を用いて比較した。その結果これらの生物の持つ肢芽は生物種ごとに数倍の違いがあるもののこれらの遺伝子の発現様式は大きな違いが見られなかった。すなわち肢芽の大きさに合わせて生物種間でShh遺伝子の発現領域およびその拡散が調整され四肢の前後軸パターン形成が行われているものと考えられた。ただし今回の実験で行ったのは主に全身をそのまま用いた解析だったので、肢芽の立体的な構造の差異から正確な比較ができていないと感じたので次年度で切片を用いた解析を更に行う予定である。 また、イベリアトゲイモリ初期発生中の肢芽及び前肢を切断した際に形成される再生芽において一細胞の形態または成長再生においてどのように細胞が移動するかを観察するために遺伝子組み換えイベリアトゲイモリを作製する準備を始めた。すでにアフリカツメガエルの同様な実験に使用されている遺伝子組み換え用の手法とプラスミドを今回の実験用に改良し試行実験を行った。しかしながら、当年度のイベリアトゲイモリ産卵数が少なく思うように試行の結果を得られなかった。 更にイベリアトゲイモリの再生においてShhおよびその下流遺伝子の発現様式が初期発生の前肢肢芽と比べてどのように変わるのかを調べるために、イベリアトゲイモリの再生芽のin situハイブリダイゼーション法による遺伝子の発現範囲の解析実験の試行をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はまずニワトリ、イベリアトゲイモリ、ゼブラフィッシュの初期胚を用いて全身を使ったin situハイブリダイゼーション法の解析によりShh及びその下流遺伝子の発現領域を観測した。イベリアトゲイモリとゼブラフィッシュの初期胚の交配に難航したものの一定数を用いて発現の解析を行えた。この結果、前肢の原基となる肢芽(ゼブラフィッシュの場合には胸鰭芽)には他の四足類同様後方にShhの強い発現領域があり、下流遺伝子はそこから前方にある程度の広がりを持って発現している様子が観察できた。しかしながら、肢芽の立体的な構造はニワトリが半円柱型、イベリアトゲイモリが円錐型、ゼブラフィッシュが半球形をしており一概に比較はしにくかった。そこで今後組織の切片を用いて同様の解析を行いより詳細にこれらの遺伝子発現の比較を行う予定である。 また、遺伝子組み換えイベリアトゲイモリを作製するために遺伝子組み換え用の手法・コンストラクトをアフリカツメガエルで使われているものをもとに用意したが、イベリアトゲイモリの交配が予想よりもうまく行かず、遺伝子組み換え個体作製を試行することができずこの実験は後倒しにした。 イベリアトゲイモリの前肢をした際に再生する前肢の原基となる再生芽におけるShh及びその下流遺伝子の発現を調べるためにまず再生の様子の観察とサンプリングの試行を行った。その結果、変態後が最も状態を揃えやすくサンプルを揃えやすいことがわかったので、今後この時期の個体から再生芽を採取し、初期発生肢芽同様に切片でのin situハイブリダイゼーション法を用いて遺伝子発現の領域を解析したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの実験結果から切片を用いたin situハイブリダイゼーション法がShh及びその下流遺伝子の発現を解析する上で欠かせないことがわかってきたのでこれまで見てきた初期発生肢芽における発現をこの手法で遺伝子発現領域を見直す。また、ゼブラフィッシュの初期発生の胸鰭芽において遺伝子の発現を観察したものの、これとは別に胸鰭先端部分の鰭条骨の前後軸形成にもShh関連の遺伝子が関わっていることが考えられたので、この部分が形成される時期についても同様に解析を行う予定である。 イベリアトゲイモリ肢芽、再生芽及びゼブラフィッシュ胸鰭芽、鰭条骨領域においてShh及びその下流遺伝子が前後軸の位置情報の決定にどのように影響しているかを検証するため、またこれらの組織に四足動物の肢芽細胞に見られたような長い糸状仮足を持っているのかを観察するために、本年度までに用意した手法を用いてイベリアトゲイモリの遺伝子組み換え個体、またゼブラフィッシュの遺伝子組換え個体を作製し可能ならば観察を始める。 また、イベリアトゲイモリの再生芽においてShh及びその下流遺伝子の発現領域を切片in situハイブリダイゼーション法を用いて先の初期発生における肢芽の発現領域と比較する予定である。しかしながら、再生開始後何日目または再生のどのステージにおいて再生する前肢の前後軸に決定的なShh遺伝子の発現が見られるかについてはわかっていないため、まずはこの部分について複数の前肢再生芽を解析することで明らかにする予定である。
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