研究課題
小児先天性心疾患での肺動脈狭窄症例の外科的血流再建に近年用いられている、ハンドメイドの延伸ポリテトラフルオロエチレン製3弁付導管(ePTFE弁)を定量的に弁機能および弁作成手技を評価し、より右心循環に適応する弁形状設計を提案することを目的として、医工学的評価システムの構築を進めている。本年度成果概要として、まず、小児右心模擬循環回路を用いてePTFE弁改良試作モデルの血行力学評価を行った。弁前後圧力、弁通過流量、開口面積を計測し、弁前後圧較差および流量から算出した収縮期エネルギー損失の低減について、bulging sinusの血行力学的有効性が示され、また、bulging sinusの大型化に伴う開口面積と弁閉鎖時逆流量にはトレードオフがあることが示唆された。また、弁挙動について線形力学モデルを構築し、モデルパラメータによって設計形状と血行動態との相互作用を定量的に表す試みを行い、弁・導管形状変化による動的抵抗を推定できる可能性を提示した。さらに、静止流体中で物体に変位を与えた際に生じる相対的流れを利用して、単純な変位入力により生じる弁葉開閉の詳細観測を試みた。リニアカードモータをアクチュエータとし、流体を満たしたリザーバ内で弁を鉛直方向に変位させる加速流弁葉挙動試験装置を新たに開発した。健常成山羊新鮮肺動脈弁およびePTFE弁葉モデルをそれぞれ装置に接続し、同等な駆動条件で弁葉開閉を観測し、リザーバ底面から高速度ビデオカメラによる動画撮影を行った。これら計測の解析を現在進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究計画としては、右心循環を模擬する評価回路の高精度化、弁葉挙動に主眼をおいた新たな弁駆動装置の開発、数値解析による弁葉の力学モデル化とそれによる弁設計形状と血行動態との相互関係の定量的表現法の提案を予定した。空気圧駆動右心房モデル開発および導入による小児右心循環の高精度な再現が可能となり、改良回路による機械式二葉弁やePTFE弁の新型プロトタイプの血行力学評価を行った。モデル循環での実験結果から、導管bulging sinus形状の流体力学的有効性を改めて提示した(IEEE EMBSなどにて発表)。また、実流体シミュレーションによるデータ取得とあわせて、弁葉の数理モデル化によって弁設計形状と血行動態との相互関係を定量的に表現する試みを行い、導管形状の差異による血行力学的抵抗性を力学的3要素(慣性、粘性、弾性要素)で数値的に示すことができた。bulging sinus形状によって、特に粘性項に代表される、流速変化に対する抵抗性が改善されるという結果が得られた(Advanced Biomedical Engineering誌に掲載)。さらに、弁周辺流体の現象をできるだけ単純化して、弁葉挙動のより詳細な観測と形状改良提案を進めるため、加速流弁挙動試験装置を新たに開発している。装置で弁を1方向に変位させた際の相対的流れによって弁葉を開放・閉鎖させ、高速度ビデオカメラで観測し詳細な弁挙動を取得する系を構築し、動画取得の基礎検討まで行った。以上の成果については、研究計画に則って進められたものであり、概ね順調に研究が進展している。
模擬循環回路を用いたePTFE弁の定量評価と、数理モデルによる設計形状-血行動態間相互作用の数値的表現の試みによって、弁性能向上に有効な具体的設計パラメータ抽出は定まりつつある。そのうち、弁葉形状について詳細に評価し、可動性・応答性を向上させるべく、今年度新たに開発した加速流弁葉試験装置の駆動条件最適化と、高速度動画計測系の構築を完了させ、複数台の高速度動画撮影による立体視を利用した弁葉挙動の3次元計測および力学モデリングによる弁葉形状の改良提案を行う。上記の医工学評価によって血行力学的に弁葉・bulging sinus形状について最適化されたePTFE弁の動物実験における生体内有効性・安全性・耐久性評価を今後進めてゆく。なお、動物実験における右室流出路再建モデルについては、健常山羊での右室-肺動脈バイパスモデル作成手技を検討済みであり、急性実験での肺血流変化を確認している。これらのモデル評価によって、ePTFE弁の性能を包括的に評価し得るシステムの構築と設計形状最適化を進めていく予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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