研究課題/領域番号 |
15J00542
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有澤 知世 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 江戸戯作 / 人的交流 / 山東京伝 / 式亭三馬 / 広告 |
研究実績の概要 |
本研究は、江戸戯作を社会的・文化的に位置づけることを目指し、作品世界と、作品を取り巻く外的な要素との相関性について考察するものである。本年度は、以下の成果を得た。 1.山東京伝の黄表紙『唯心鬼打豆』(1792年刊)に、上田秋成の読本『雨月物語』(1776年刊)が利用されていることを指摘し、従来の説よりも7年早い時期に上方読本から江戸戯作への影響があることを明らかにした。この成果は「京伝黄表紙と「夢応の鯉魚」」として『上方文藝研究』12号に発表した。 2.京伝合巻において、名所図会等が素材として頻繁に用いられることを指摘し、京伝が典拠について十分に理解した上で効果的に利用していることを明らかにした。この成果は日本文学協会第35回研究発表大会で口頭発表を行い、「京伝合巻と図会もの」が『日本文学』に掲載予定である。 3.式亭三馬を中心に、江戸戯作者による広告活動について考察を行い、三馬の狂文が江戸以外の土地においても需要があり、依頼を受けて執筆した広告文においても、三馬の名前が全面に出されていることから、三馬の名前が一種の〈全国ブランド〉であったという結論を得た。この成果は「式亭三馬の広告文―戯作者という〈ブランド〉―」として、第6回大阪大学・チュラーロンコーン大学・日本文学国際研究交流集会で口頭発表を行った。 4.京伝合巻における異国意匠の取材源が、同時代の戯作者・蘭学者森島中良の貼込帖であることを指摘し、戯作における異国趣味の背景について考察した。中良周辺には、長崎出役経験のある幕臣がおり、彼らがもたらした異国の物品や情報が同好の士の間で共有されている。この背景は近世後期の考証学の隆盛であり、戯作中の異国趣味は、当時の知識人達の異国に対する関心の高さの反映である。この成果は絵入本ワークショップⅧ等で口頭発表を行い「京伝作品における異国意匠の取材源」として『近世文藝』に掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究は、インプットとアウトプットがバランスよく進み、複数の切り口で成果を挙げた点で、期待以上の進展があったと言える。研究課題の中心に据えた式亭三馬については、新資料を駆使して三馬という〈ブランド〉性を浮き彫りにした。しかし特筆すべきは、本研究が三馬にとどまらず、戯作研究の本山ともいえる山東京伝にも及び、成果を挙げたことである。研究実績の概要1は、京伝の黄表紙が『雨月物語』を踏まえていることを初めて明らかにし、2は京伝の合巻と〈図会もの〉の関係について、その利用方法にまで掘り下げた考察を行った。そして4では、京伝戯作に森島中良の貼り込み帖が利用されたことを実証するのみならず、京伝の人的交流にまで問題を広げることができた。そのことにより、文化文政期の戯作界と、同時期における考証学ネットワークとの関連性について具体的な様相を描くことができ、今後の、近世後期における人的交流についての研究への足掛かりとすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、主に山東京伝の作品の特色について考察を深めたため、今後は、文化文政期の作品を網羅的に調査し、同時代の作品間の関係性について考察する必要がある。その際、本屋の企画による、人気先行作品の摂取のあり方に注目し、戯作の商業性をさらに浮彫にすることを目指す。 また同時に、戯作者達の人的ネットワークについての考察を進める必要がある。その手がかりとなり得るのが、書簡や日記などの資料であるため、これらの調査を進め、当時の人的交流の様相を明らかにすることを目指す。
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