研究課題/領域番号 |
15J00561
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 園子 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | フランス文学 / フランス近現代詩 / ジュール・シュペルヴィエル / 『船着き場』 / 『パンパの男』 |
研究実績の概要 |
今年度は、詩集『船着き場』(1922年)『引力』(1925年)『無実の徒刑囚』(1930年)等の初期作品を対象に、不在と伝達というテーマのもと作品を具体的に検討することを目的とし、研究に着手した。より綿密にテクスト読解を進めていく中で、詩集『船着き場』と『引力』の間に書かれた小説『パンパの男』(1923年)が想像力の拡大の重要な装置として機能していることに気づき、ジャンルを横断する形で、南米での経験が詩的機能を帯びる様子を明らかにすることを試みた。この成果として、論文「南米あるいは夢の出発点―ジュール・シュペルヴィエル『船着き場』から『パンパの男』へ―」、東京大学大学院総合文化研究科フランス語系学生論文集『Resonances』、第9号、pp. 42-49、2015年12月1日(査読あり)を発表した。また、ヴィシーにあるヴァレリー・ラルボー図書館にて1920年代を中心にシュペルヴィエルとヴァレリー・ラルボーの間で交わされた往復書簡の調査を行った。収集した資料は、シュペルヴィエルと文壇との関わりだけでなく、その詩法を考察する上でも重要なものであり、今後の研究に繋げることが期待される。そのほか、まだ研究実績として形にはなっていないが、「不在と伝達」という包括的な主題を支える個別のテーマとして、「汎-共感(Pansympathie)」、「距離(distance)および距離の設定(distanciation)」、「叙情の向かう先(adresse lyrique)」に着目し詩作品全体の緻密な読解を進めると同時に、議論を支える理論的な枠組みの構築を行った。この作業は来年度も継続して行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね計画どおり研究が進んでおり、成果を公表している。詩集『引力』の分析、特に自由詩の形式に注目した分析に関しては、まとまった形で成果を発表できていないため、今後成果を発表していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、詩集『未知の友達』(1934年)、『世界の寓話』(1938年)、『忘れがちの記憶』(1948年)といった中期から後期にかけてのシュペルヴィエル作品を対象に、「叙情の向かう先」すなわち「誰に向けて書かれているのか」というテーマを中心に据えて、発話の特徴を明らかにしていく。今年度の研究が、「不在と伝達」というテーマに対して地理的、現象学的にアプローチする試みだったのに対して、次年度は言語学的分析を含む形式的なアプローチの比重を大きくする。また、自伝的エッセー『泉に飲む』(1933年)を参照することで、シュペルヴィエルの詩作品における自伝的な「わたし」と叙情的な「わたし」の関係を検討する。さらに、対話形式の発話を分析する上で、シュペルヴィエルの戯曲や小説についても視野に入れることを考えている。
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