研究課題/領域番号 |
15J00573
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 彩 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
キーワード | ラマンイメージング / 石灰化過程 / ヒドロキシアパタイト |
研究実績の概要 |
【1.マウス骨芽細胞の経時的解析】 マウス間葉系幹細胞株KUSA-A1を使用し,その石灰化過程(骨形成の超初期過程)を顕微ラマンイメージングにより経時的に解析した.KUSA-A1骨芽細胞へと分化誘導し,分化誘導開始5日後から4時間毎に24時間,その分化過程を顕微ラマンイメージングにより経時的に解析した.その結果,ハイドロキシアパタイト(HA),β-カロテン,シトクロムcの局在変化を同時に観察することに成功した.本結果より,β-カロテンは,石灰化開始部位のバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された.本実験結果をまとめた論文をScientific Reports誌に投稿した. 【2.ヒト歯根膜細胞の経時的解析のための実験条件の検討】 【1】で行なった,顕微ラマンイメージングによる経時的解析をヒト歯根膜細胞に応用するための実験条件検討を行なった.まず,ヒト歯根膜細胞の培養基板を検討した.その結果,フィブロネクチンコートを行えば,石灰化過程進行時まで,ヒト歯根膜細胞を石英ガラス基板上で培養可能であることが分かった.また,フィブロネクチンコートがラマンスペクトルに大きな影響を及ぼさないことを確認した. 【3.ハイドロキシアパタイト(HA)局在とコラーゲン分布の相関性の解析】 骨のミネラル分の主成分はHAであり,骨基質タンパク質の大部分は I 型コラーゲンが占めることが知られているが,I型コラーゲンの分布がHA局在に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで,顕微ラマンイメージングの“非侵襲かつ特異的にHAを可視化できる”という利点を活かし,HAの局在とI 型コラーゲンの分布の相関性の解析を試みた.本実験結果から,I 型コラーゲンの分布の緻密さが,HAの産生・分布拡大に大きく寄与することが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル細胞であるマウス間葉系幹細胞を用いての,顕微ラマンイメージングによる石灰化過程(骨形成の超初期過程)の経時的解析に成功し,その解析結果から,骨形成開始部位にベータカロテンという物質が局在するという結果を世界で初めて得ることができた.このように,本研究課題において重要な,「骨形成過程の詳細解明」や「顕微ラマンイメージングの骨科学研究における有用性の実証」を成し遂げることができた.さらに,本研究課題の目的である“顕微ラマンイメージングによる歯根膜細胞による歯槽骨の再生機構解明”を実現するための,実験条件検討にも着手できた.(これまでは,マウス細胞を使用してきたが,今後は,ヒト歯根膜細胞を使用するため,実験条件の再検討が必要となる.ここでの実験条件検討とは,ヒト歯根膜細胞を用いた実験用の培養基板やレーザー光強度の検討を指す.)以上より,本研究課題の目的達成に向けた実験が,この1年で着実に進んだと考え,「おおむね順調に進展している」とした.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,顕微ラマンイメージングによるマウス間葉系幹細胞の骨芽細胞分化過程・石灰化過程の経時的解析を達成したので,本年度は,ヒト歯根膜(hPDL)細胞の経時的解析を試みる.まず,hPDLの経時的解析を行うために,同一組織中の任意の地点における経時的解析を容易にするための実験システムを構築する.また,レーザー光波長・強度・照射時間等の最適化などを行い,同一hPDL細胞の経時的ラマンイメージング測定を可能にする実験条件を確立する.その後,実際に,1か月前後の長期間にわたる,hPDL細胞の経時的解析を試みる.また,顕微ラマンイメージングと免疫蛍光染色法の組み合わせにより,骨形成開始部位と骨基質タンパク質(I型コラーゲン,オステオカルシン等)の分布に相関があるかを調査し,骨形成開始の開始因子となる生体分子の同定も試みる.さらに,「培養した骨芽細胞組織から得られる,骨の主成分ハイドロキシアパタイト(HA)のラマンバンドが,HAの純物質のラマンバンドと比較して,低波数側へシフトする」現象が,骨基質タンパク質に起因することを調査するため,アミノ酸修飾HAのラマン分光測定を行い,骨組織周囲のタンパク質がHA に及ぼす影響について検討する. また,応用物理学会や日本化学会などの国内学会のほか,国際学会にも積極的に参加し,随時,本研究の成果を発表する予定である.
|