1.ポジショニング手法の確立および顕微ラマン分光法による同一ヒト歯根膜細胞の経時的解析 まず、ラマン分光法によるヒト歯根膜細胞の経時的解析を実現するため、同一細胞を長期的にモニタリング可能な実験系の確立を行なった。本研究では、ディッシュのX-Y平面おける回転を制御するため自作のポジショニングプレートを、X/Y座標を制御するためにグリッド付ガラスディッシュのグリッドを利用した。本手法を用いれば、誤差1μm未満の精度で定点を観測することが可能であった。本ポジショニング手法利用し、実際に、顕微ラマン分光法によるヒト歯根膜細胞の経時的解析を実施した。同一のヒト歯根膜細胞に対し、分化誘導前、分化誘導開始から、3、6、9、14日後に顕微ラマン分光測定を行なった。長期的な定点観察をするために使用したグリッド付ガラスディッシュによる蛍光が強く、鮮明なラマンイメージを得ることができなかったが、シトクロムcやハイドロキシアパタイトなど、合計4種の骨形成関連分子のモニタリングに成功した。 2.ラマン分光法とフラグメント分子軌道法による生体組織中のハイドロキシアパタイトの解析 これまでの研究を通して、培養組織から得られるハイドロキシアパタイト(HA)のラマンバンドが、純物質のそれと比較して、低波数側へシフトしていることが明らかとなった。そこで、生体内におけるHAと骨基質タンパク質の相互作用を調査するため、タンパク質の構成要素であるアミノ酸を吸着させたHAのラマン分光測定を行ない、それら有機質がHAのラマンバンドに及ぼす影響について調査した。さらに、フラグメント分子軌道(FMO)法によるHA-アミノ酸間の相互作用解析を行なった。ラマン分光測定およびFMO解析の両結果は、共に、HAがアミノ酸から引力相互作用を受けていることを示唆した。
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