オオミジンコは淡水系に広く生息する甲殻類で、環境の変化に敏感に応答するという特徴から、毒性学・環境学などの研究に長年利用されてきた。近年ではゲノム配列が解読されるなど、大量の遺伝子情報が集積されつつある。オオミジンコで利用可能な遺伝子工学的手法の開発が進めば、遺伝子機能解析だけでなく、環境中の毒性化学物質を検知する生体センサーミジンコの開発など応用研究も進展すると期待される。しかしながら、ミジンコで利用可能な遺伝子操作技術はほとんどなかったため、研究が進んでいなかった。そこで本研究では、TALEN (Transcription Activator-Like Effector Nuclease) とよばれるゲノム編集ツールに着目し、ゲノムに任意の外来遺伝子を組み込む(ノックイン)技術をミジンコで確立することを目指した。 ノックインが起こったか簡便に判断するために、eyeless遺伝子に点変異をもつ変異体(Δey変異体)を実験に利用した。eyeless遺伝子は複眼の形態形成に必須の遺伝子である。野生型ミジンコの複眼は通常球形をしているが、Δey変異体の複眼は奇形となっている。TALENを利用したノックインでeyeless遺伝子の点変異を修復すれば、複眼の表現型が通常どおり球形に戻り、複眼の表現型からノックインが起こった個体を簡便に選出できると考えた。そこで、attPと呼ばれる外来遺伝子配列をΔey変異体のeyeless欠損アレルに挿入することを試みた。eyeless-targeting TALEN mRNAとattPを含む鋳型DNAを胚に顕微注入したところ、目的のゲノム位置にattP配列が挿入され、複眼が通常どおり球形の表現型を示すノックイン個体を約2%の効率で得ることができた。以上の研究により、ミジンコで初めて標的遺伝子座に外来遺伝子をノックインする技術を確立することができた。
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