熱刺激によって伸縮するポリマーを修飾したゲルを調製し,タンパク質の温度応答性分離媒体を開発することを目的として研究を遂行した。特に,高温においてポリマー鎖が伸長する熱応答性ポリマーによってゲルの孔径を縮小させることで,温度変化によるタンパク質の電気泳動速度制御を試みた。昨年度までの研究で熱に応答してポリマー鎖が伸長収縮し孔径が変化するゲルの創成に成功し,その孔径を推算した結果,温度上昇によって44 nmから28 nm程度に変化することが確認されたが,生体試料中のタンパク質をゲル中に濃縮するためには孔径変化をさらに大きくする必要がある。また,熱応答による孔径変化が可能なゲルを創成し,温度制御によってタンパク質を泳動/停止させることで,単離濃縮が可能な分離システムの構築も目指した。 0.5% poly(N-acryloylglycinamide)(NAGAポリマー)修飾5%T/5%C polyacrylamide ゲルを用いてDNAをキャピラリーゲル電気泳動分離した結果,NAGAポリマーを修飾していないゲルとは異なり,DNA間の分離挙動に温度依存性が確認された。15℃から20℃の昇温時に102 bpに対する174 bpの移動度比が増加しており,孔径が約30 nmから約18 nmに減少したと推算できる。また,5%T/3%C polyacrylamideゲルを用いてタンパク質を分離した結果,分子量の対数と移動度のプロットの関係に直線性が確認された。NAGAポリマーを修飾した場合には,その直線の傾きに温度依存性が確認され,温度上昇によって直線の傾きが増大したことから分離度が向上したと考えられる。これらの結果から,創成したゲルは温度制御によって孔径が変化し,タンパク質の分離挙動制御が可能であることが示唆された。
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