研究課題/領域番号 |
15J00599
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 優樹 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | リボソームストレス / 核小体 / rRNA / 分裂期 / Cdk1 |
研究実績の概要 |
申請者は、ストレス条件あるいは非ストレス条件における核小体動態と細胞周期の関係について以下の2つの研究を行った。1.リボソームストレスが細胞周期に与える影響、2.核小体タンパク質NOL11による分裂期制御。 1.リボソーム合成に障害が生じるとリボソームストレスが発生する。特に、rRNA転写およびプロセシングの異常は核小体構造に影響を与える。申請者は、正常二倍体細胞株(RPE1細胞)及びp53陽性の乳がん細胞株(MCF7細胞)、p53の不活化されたHeLa細胞において、rRNAの転写因子やプロセシング因子をノックダウンすることで、リボソームストレス時における細胞周期を解析した。その結果、p53の存在する場合には、リボソームストレスによりp53が活性化し、細胞周期がG1期に停止することが明らかとなった。一方、p53が存在しない場合にはリボソームストレスの誘導の方法によって異なる挙動が確認された。 2.上記の結果から、いくつかの核小体タンパク質はリボソームストレスによるp53依存的な細胞周期とは独立した経路により細胞周期を制御する可能性が考えられた。そこで、rRNAの転写因子およびプロセシング因子を含む約600種類の核小体siRNA libraryを用いて、細胞周期、特に分裂期に影響をおよぼす核小体タンパク質を探索した。その結果、NOL11という核小体タンパク質に着目した。NOL11をノックダウンすると分裂期の開始が遅延し、さらに分裂期中における染色体整列に異常が生じることが明らかとなってきた。申請者は、これらの研究を進め、国内学会においてポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.リボソームストレスが細胞周期に与える影響を解析するために、rRNA転写因子やプロセシング因子をノックダウンした。正常二倍体細胞株(RPE1細胞)やp53陽性の乳がん細胞株(MCF7細胞)において、 p53活性依存的に細胞がG1期に停止した。また、HeLa細胞では、発現が抑制された因子によって細胞周期の挙動は異なったが、いくつかのプロセシング因子の発現を抑制するとG2およびM期において細胞周期の遅延が見られた。以上の結果から、リボソームストレス時においてはp53活性に依存して、細胞周期の状態が変化することが示唆された。また、p53が欠損および不活化された条件においては分裂期における遅延や停止が見られたことから、核小体タンパク質が分裂期の進行に関与する可能性が示された。 2.核小体タンパク質が分裂期を制御するかどうかを調べるために、約600種類のsiRNAを用いて、RNAiスクリーニングを行った。その結果、Nucleolar protein 11(NOL11)というタンパク質に注目した。解析の結果、NOL11をノックダウンすると分裂期細胞の割合が増加し、分裂期の染色体整列に異常が生じた。また、 細胞周期を同調して調べると、NOL11 KD細胞はM期への進入が顕著に遅延することがわかった。NOL11のノックダウン時にはM期の開始に必須であるCdk1の活性化が抑制されていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究2を中心に解析を進めていく予定である。NOL11ノックダウン時にはCdk1の活性化が抑制される。Cdk1活性は(1)cyclin Bの発現量、(2)Cdk1の抑制的リン酸化の脱リン酸化、(3)cyclin Bの核移行と多段階に制御されている。NOL11ノックダウン時にどの段階が抑制されるのかを調べ、その分子メカニズムを解析する。また、NOL11ノックダウン時に見られる分裂期染色体の整列異常がCdk1活性の抑制によるものなのか、あるいは異なるメカニズムで生じるのかについて解析する。 NOL11は核小体タンパク質であり、rRNAの転写やプロセシングに関与することが報告されいる。したがって、分裂期の開始の遅延や染色体整列異常が核小体の構造変化によって引き起こされる可能性がある。そこで、NOL11ノックダウンで生じる分裂期に関するいくつかの異常が、核小体の構造変化を介して生じるかについても解析を行っていく。
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