植食性昆虫の多様性創出機構としての食性の変化を伴う生態的種分化と伴わない非生態的種分化の相対的重要性を明らかにするため、カエデ属植物を利用するハマキホソガ属蛾類を対象として検証を試みた。その結果、食性の変化は、非生態的種分化から予測されるパターンに近い結果が明らかとなった。この成果は今年度、Ecology and Evolution誌に掲載された。さらにこの検証を全球スケールで実施するため、昨年度のアメリカでの採集に加え、今年度はヨーロッパでの採集を実施した。これらの海外サンプルを含めた系統樹のパターンと解析について現在進めている。 また、植食性昆虫が他の生物群と比べて、多様性が高いことの代替仮説として局所スケールでの共存種数に焦点を当て調査を実施した。京都大学芦生研究林で共存するカエデ属植物を利用するハマキホソガ属蛾類を対象として、その寄主利用(資源ニッチ)、季節消長(時間ニッチ)、寄生蜂群集(天敵ニッチ)のパターンを調査した。本調査は、2-3週間おきに月に2回1年間に渡り、9種類のカエデ属植物を利用する10種類のハマキホソガ属蛾類、計274個体の採集を行った。寄生蜂群集については、次世代シーケンサーを用いた新規手法を開発し、ハマキホソガの幼虫体内の寄生蜂の種類を網羅的に特定することを可能にした。これらの結果は共存するハマキホソガ属の間には同じ寄主植物を利用する種間であっても、時間や天敵のニッチ分割がないことを示し、むしろ全体の傾向として時間的に同調、天敵も共有する傾向にある事が明らかとなった。この成果はMolecular Ecology誌に受理され、掲載予定である。
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