本年度は、『源氏物語』とその成立前後の和歌の関係について研究を行った。具体的には次の4点である。 1.三条帝中宮妍子の崩御をめぐる哀傷歌における『源氏物語』摂取の実相を明らかにした。妍子女房たちの哀傷歌で行われた『源氏物語』摂取は、当時の一般的なそれに比して高度な『源氏物語』への理解を要するものであり、『源氏物語』成立の場と非常に近いところに存在した人物による『源氏物語』享受の実態を指摘した。成果については第2回EAJS日本会議および第2回大阪大学古代中世文学会夏季セミナーにて口頭発表し、論文「藤原妍子周辺の女房と『源氏物語』――哀傷歌を通して――」としてまとめて、『詞林』61号に報告した。 2.素材の共通性において『源氏物語』と密接な関わりを有し、その先後関係が議論されてきた『為信集』について検討を行った。『為信集』の表現分析などにより、『為信集』が『源氏物語』の強い影響の下に成立した家集であることを明らかにした。成果については第280回大阪大学古代中世文学研究会において口頭発表した。 3.堀河帝の崩御に際して源国信が詠んだ『源中納言懐旧百首』における『源氏物語』摂取とその実態を明らかにした。『源中納言懐旧百首』には『源氏物語』の顕著な摂取が見られる。その摂取箇所の検討により、国信は『源氏物語』自体ではなく作中歌の抜書のようなものを参照していたことを明らかにした。成果については第277回大阪大学古代中世文学研究会において口頭発表した。 4.『源氏物語』における「風に吹かれる竹」の景について検討を行った。この景は従来漢詩由来の表現と理解されてきたが、当時の和歌の中で捉え直すことにより新たな読解の可能性を提唱した。成果については韓国日本学会第94回国際学術大会において口頭発表した。
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