研究課題
転写共役因子PGC1α(PPARγ coactivator 1α)は骨格筋において運動により発現増加し、ミトコンドリアの生合成・筋線維タイプの変化・脂肪酸酸化促進など、エネルギー代謝や運動に関連する遺伝子発現を活性化する。私の所属する研究室では以前、PGC1αを骨格筋特異的に過剰発現させたPGC1αTgマウスと、PGC1αを骨格筋特異的に欠損させたPGC1αKOマウスを作製した。本研究では、PGC1αTgマウスPGC1αKOマウス骨格筋について、マイクロアレイおよび次世代シーケンサーの網羅的発現解析を行った。その結果、PGC1α-Tgマウスの骨格筋において分岐鎖アミノ酸(BCAA)代謝が亢進していることが示唆された。さらに、PGC1α-Tgマウスの骨格筋においてBCAA代謝酵素の発現が増加したことを確認した(Hatazawa et al. PLOS ONE 2014)。一方、骨格筋特異的PGC1α欠損マウスにおいて、TCA回路やBCAA代謝に関連する遺伝子発現が低下していることを見出した(Hatazawa et al. BBRC 2016)。PGC1αKOマウスはPGC1αTgマウスと逆向きの表現型を示しており、gain of functi on だけでなく、loss of functionの実験によって、PGC1αの機能が明らかになった。すなわち、PGC1αを活性化することが筋機能の活性化に繋がることが、in vivoの実験で示唆された。また、PGC1αがアラニン代謝を制御している可能性についてもデータが得られた。
2: おおむね順調に進展している
研究は「研究の目的」に沿って、順調に進捗している。研究成果を、本年度、英文専門誌に発表した(Deletion of the transcriptio nal coactivator PGC1α in skeletal muscles is associated with reduced expression of genes related to oxidative muscle function.Biochem Biophys Res Commun. 2016; 481: 251-258.等)。さらに、国内外の学会や研究会おいて研究成果を発表した。
本研究では、PGC1αに着目して研究を行っている。PGC1αの運動時の代謝変化を引き起こすことが明らかとなってきた。筋萎縮は身体活動を低下させQOLが低下する。がんによる筋萎縮(カヘキシー)の防止は寿命を延長させることが報告される。また、加齢による筋萎縮時の肝臓の病変(肝硬変など)は、アンモニア脳症を引き起こすなど、骨格筋量の重要性が知られる。一方、適度な運動は生活習慣病の予防・改善に効果があることが知られる。しかしながら、運動習慣のない人、生活習慣病の合併症などで、運動ができない人なども多く存在する。そのような人に対して、運動効果を引き起こす食品や医薬品(運動模倣薬)は期待が大きい。これらの経路の主要な制御因子としてPGC1αが発見されたことは重要である。今後、PGC1αの活性を改変しうる成分を見出し、検証を行ってゆきたい。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
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