研究実績の概要 |
卵が安定的に供給されるためには、卵の大本となる生殖幹細胞(GSC)の分裂と維持の制御が鍵である。従来の研究では、GSCの性質を維持するために、周囲の細胞が様々なシグナルを出す微小(ミクロ)環境「ニッチ」の重要性が注目されてきた。一方多くの動物で、卵形成過程は個体をとりまくマクロな環境変化に応じて柔軟かつ適応的に調節される例が知られている。こうしたマクロな環境に対する卵形成の応答は、GSCというミクロなレベルへと何らかのメカニズムを通じて反映されるはずだが、マクロな環境変化がGSCに与える影響については不明な点が多く残されている。
申請者は、キイロショウジョウバエ成虫メスにおいて、交尾刺激がGSC増殖を引き起こすことを明らかにした。交尾依存的なGSC増殖は、オスの精液中のペプチド成分によってメスの神経で引き起こされる「性ペプチドシグナル経路」および卵巣での「ステロイドホルモン生合成」によって制御されることを証明した(Ameku and Niwa, PLoS Genet. 2016, Ameku et al., Fly 2017)。交尾依存的なGSC増殖を制御する神経内分泌メカニズムを明らかにしたことは、従来のミクロな視点からのGSC研究に新たにマクロな観点(交尾行動)をもたらす意義を持つ。
交尾依存的なGSC制御において、神経と卵巣をつなぐメカニズムを明らかにするために、284の膜受容体を標的としたin vivo RNAiスクリーニングを実施・完了させた。その結果、機能阻害により交尾後のGSC増殖が抑制される50遺伝子を得た。その中でも交尾後のGSC増殖を制御する有力な候補因子を同定し、詳細な機能解析を行った。一連の結果から、交尾刺激とGSC増殖をつなぐメカニズムに関して重要な知見を得た。(Ameku et al., 論文投稿準備中)。
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