平成27年度の研究では,物理気相成長法の一つである同軸型アークプラズマガン(coaxial arc plasma gun: CAPG)を用いてナノダイヤモンド粉末の作製装置の開発と作製条件の確立に注力した.CAPGにグラファイトロッドを原料およびカソードとして取り付け,石英板にアークプラズマを照射することでナノダイヤモンド粉末の作製を行った. 粉末X線回折測定より,作製した粉末中に直径10 nm以下のダイヤモンドが存在することが明らかとなった.さらに,放電エネルギーによりナノダイヤモンド粉末を2.4 nmから15 nmの範囲で制御することに成功した.アークプラズマの発光分光分析より,プラズマ中の粒子の内,炭素イオンがダイヤモンドの形成に大きく寄与していると考えられる.浮沈法を用いた密度測定より,作製した粉末中には約40 %のダイヤモンドが存在することが明らかとなった.この値は,現在のナノダイヤモンド粉末の主な生産方法である爆轟法の一次生成物と同程度の割合である. ダイヤモンド粉末への磁性付与は,Cr原子をin situドーピングすることで図った.ダイヤモンド格子中でCrが2価の状態で存在することで磁気モーメントが生じることが理論的に予測されている.X線光電子分光より作製した粉末中にCrが含まれていることは確認されたが,磁気測定によるCrドープナノダイヤモンド粉末の磁性は観測されなかった.これは,Crがダイヤモンド格子中ではなくアモルファスカーボン相に存在するためであると推測される.作製可能なナノダイヤモンドの粒径をさらに大きくすることで,ダイヤモンド格子中に取り込まれるCrの割合が増加し,磁性が観測できる可能性が高くなると期待できる.
|