研究課題
本年度は,開発した形状可変ミラー4枚を用いて,2段のK-Bミラー集光光学系を構築し,X線のコリメート光形成実験を行った.コリメート光形成実験はSPring-8 BL29XUL EH3にて行い,10keVのX線を,後段KBミラーの放物面とすることで二次元コリメート光の形成を試みた.4枚のミラーは,独自に開発した二段階の形状制御プロセスにより制御することでPeak-to-Valley値で2nm以下の精度で制御することに成功した.形状の変形が完了後,後段ミラー後方に配置した2台のX線ビームモニターでコリメート光のサイズをその強度プロファイルから計測した.その結果,ビームモニター間の距離2450mmではX線のビームサイズの変化はなく,314 μm (水平) × 358 μm (垂直)かつ0.1μradの平行度をもつコリメート光の形成に成功した.また後段ミラーの照射領域を制限することで,127μm (水平) × 65μm (垂直)のコリメート光の形成に成功した.また,本年度はX線自由電子レーザー用の長尺形状可変ミラーの開発を開始し,変形を圧電素子のみに頼らない,弾性ヒンジを用いたミラーベンダーとバイモルフミラーを組み合わせた新たなアダプティブミラーシステムを考案した.有限要素法を用いた変形解析と波動光学計算による集光シミュレーションから必要となる工作精度や,ミラーのパラメータなどを見積もり,ミラーベンダーおよびバイモルフミラーの設計・製作までを本年度までに完了した.
2: おおむね順調に進展している
本年度は, X線集光光学系の性能評価およびX線自由電子レーザーへ応用が可能な長尺形状可変ミラーの開発を行った.SPring-8にて4枚の形状可変ミラーによって,2段のKirkpatrick-Baezミラー集光光学系を構築し,コリメート光を形成した実験では,314 μm × 358 μm と127μm ×65μm の2つの異なるサイズかつ0.1μradという高い平行度を持つビームの形成に成功しており,昨年度の成果とあわせて,開発した光学系はナノメートルから数百マイクロメートルオーダーのX線ビームを任意のサイズでコントロール可能であることを実証した.また,これまで実現していなかった,長尺の高精度形状可変ミラーの開発にも着手し,シミュレーション結果に基づき設計を行い,装置の製作も完了している.以上のように,多機能なX線集光光学系の構築に成功し,次世代光源へ向けた新規光学素子の開発も進んでおり,研究は期待通り進展しているといえる.
今後は,作製した長尺形状可変ミラーの性能検証を行っていく予定である.大学の実験室では,干渉計利用してミラーの傾斜角を変えながら行うスティッチング計測を行うことで,ミラーの変形量を計測しながら,2ナノメートル程度の精度で,目標とする楕円形状へと変形可能であることを実証する.また,長尺形状可変ミラーを用いて放射光施設にて1次元集光ビームの形成実験を行うことで,集光性能の評価する.ミラーの形状修正は,X線を用いた形状計測法であるペンシルビーム法を利用する予定である.また,ミラー形状の安定性を向上させるため圧電素子のドリフト現象の抑制法の開発にも着手する.ドリフト現象は,圧電素子の分極の不安定である領域が原因で生じると推察しており,圧電素子に特殊な電圧パターンを印加することで抑制できるを発見している.そのため個々の圧電素子に対して,事前に電圧印加パターンを作成しデータベース化することでより効率的なドリフトの抑制を行うことを試み,迅速なミラーの形状創成法確立を目指す.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件)
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