先年度の研究により、TBEVのゲノムRNA中のSL-2構造の関与が神経細胞内ゲノム輸送のウイルス因子として同定され、輸送能を欠損した変異ウイルスが作出された。よって、本年度ではウイルス因子と相互作用し、輸送を行う宿主因子の解析を行った。輸送の宿主因子としてNeuronal granuleと呼ばれている機構に着目した。Neuronal granuleを構成する代表的なRNA結合蛋白質(FMRP、RNG105など)とウイルスゲノムRNAの共局在を解析したところ、神経突起上にて共局在が認められた。 次にNeuronal granuleを構成するFMRPとウイルスゲノムRNAと結合の有無を解析した。免疫沈降法後のRT-PCRにより、野生型のTBEVゲノムRNAはFMRPと結合し、TBEVはNeuronal granuleを構成する蛋白質と相互作用していることが示された。 Neuronal granuleは樹状突起mRNAと呼ばれる特定の宿主mRNAを樹状突起へと輸送する。そこで、ウイルス感染およびウイルスゲノム輸送が、生理的な樹状突起mRNA輸送と競合するのではないかと仮説を立て検討を行った。樹状突起mRNAの分布を解析したところ、樹状突起における顕著な分布が認められたこれらの実験結果より、TBEVはNeuronal granuleを利用し神経細胞にてウイルスゲノムRNA輸送を行い、生理的輸送と競合していることが示された。 本研究により、TBEVは神経細胞への感染時、Neuronal granuleを乗っ取ってウイルスゲノムを樹状突起へと輸送する性質があることが示された。他の神経向性ウイルスにおいても同様のメカニズムの報告は無く、新規のウイルスの神経細胞における複製/病原機構が示された1~3年目に得られた実験結果を統合し、PNAS誌にて発表した。
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