研究課題/領域番号 |
15J00695
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
遠藤 雄大 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | グラニュライト / ゴンドワナ超大陸 / 流体包有物 / 鉱物平衡モデリング法 / 部分溶融 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では主に3つの露頭について研究を行った。 一つ目は南インドのMercara縫合帯に産出する変成岩であり、特徴的な優白色の斑状のin-situ meltingの組織を示す。岩石はプレート運動により地下深部へと運ばれ、変成作用の温度が上昇していくと、その一部が溶けだす。この現象を部分溶融と言う。そして、その最初期段階に当たるのがin-situ meltingと考えられており、その詳細な解析は重要な意義を持つ。本研究では鉱物平衡モデリング法などで求めた岩石の形成条件の他に、岩石の形成時に鉱物に取り込まれた地殻中の流体(流体包有物)の研究も行い、他の手法で求めた条件と対比し、テクトニックとの関係の示唆を得た。 二つ目の露頭は南インドのTrivandrum岩体に産出する岩石である。高度変成岩とはいえ、ひときわ粗粒なのが特徴の珪長質岩と石灰珪質岩を産する。加えて、この岩石に含まれる角閃石はフッ素と塩素に富むという特徴を持つ。変成岩において、フッ素や塩素はほとんどの場合、塩水に由来するものであり、アルカリなど移動性の高い元素の移動も伴われる。本露頭においても元素の移動に由来すると思しき組織、組成の変化がみられるが、本露頭では特に複数回かつ複数種の流体の浸透を示唆する組織が見られる。そのため、この露頭の研究は下部地殻での流体の移動について、重要な意義を持つ。 三つ目の露頭はマダガスカルのIkaramavony岩体に産出する。この露頭の岩石は少量の石灰珪質岩を伴う黒雲母片麻岩というありふれた岩石であるが、この黒雲母片麻岩は一部がチャノッカイトという岩石に変化している。同様の特徴的な産状を示すチャノッカイトはincipient charnockiteとして知られ、CO2流体と深い関わりがあるとされ、その起源、岩石との相互作用の解析には大きな意味がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進行状況としては、全体としてはおおむね順調である。 当初の予定では本年度は主に部分溶融についての解析を行う予定であった。対象とするサンプルは南インドのMercara縫合帯に産出する岩石であり、それについてEPMAなどの分析機器や鉱物平衡モデリング法を使用し研究を進めて行く手はずであった。 実際には、このサンプルについてはさらに、流体包有物について加熱冷却実験やラマン分光法に分析を行うことでより詳細な研究データを得られた他、それらのデータとテクトニックとの関連についても重要な示唆が得られた。また、他の研究対象地域についても研究は進んでおり、南インドのTrivandrum岩体、マダガスカルのIkalamavony岩体のサンプルについても一通りの研究が済んでおり、研究の進捗状況は当初の予定よりもかなり速いペースといえる。 一方で、学会発表としては国際学会であるInternational Association for Gondwana Research Conference Seriesにおいてポスター発表を行ったものの、当初予定していた論文投稿を行うところまでは進めることが出来なかった。これはひとえに研究に集中し過ぎたためであり、研究の成果自体は既に十分なデータが出ているため、二年目においては余裕を持って論文執筆に当たることが出来ると考えられる。 以上より、全体としてはおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
二年目の予定としては、もともと高度変成岩における岩石ー流体間相互作用の研究を中心に進めていく予定であった。一年目での研究自体の進捗は予定以上であったものの、岩石ー流体間相互作用の解析については完全には完了していないため、初めにそれを完遂することを目標とする。その後、一年目において主に研究を行った部分溶融の解析結果をそれに統合することで、高度変成岩において普遍的かつ重要な意味を持つ部分溶融および岩石ー流体間相互作用の二つの作用について総括的な研究結果を得る。よって、進捗状況に差はあるものの、研究対象自体については当初の予定通りとなると言える。 一方で、一年目においては論文の投稿などの研究内容の発信については当初の研究計画よりも進んでいない。一年目ではもともと論文一本の投稿を目標としてきたが、研究を進める方に傾注しすぎたために、研究の進みは良かったものの論文投稿を果たすことが出来なかった。そのため、二年目おいては未了の課題については研究を進めて行くものの、論文投稿や学会発表などの比重を当初の計画よりも大きくしていく予定である。また、当初の予定では一年目に一本の論文をまとめる予定であったが、上述の通りそれはならなかったため、二年目ではその分を含む二から三本程度の論文投稿を目標とする。また、国内、国外での学会発表や学会への参加を積極的に行い、最先端の研究についての情報収集も積極的に行っていく事とする。
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