選択圧の測定では、ゴール強奪に成功してゴール内に存在する個体と、強奪に失敗して葉上にいる個体を採集し、6つの形質サイズを計測して重回帰分析および部分最小二乗回帰を用いて各形質が受ける選択圧を定量した。前年までに収集したサンプル6集団に新たに3集団(北海道ウトナイ湖、山形県寒河江市、千葉県柏市)を加えて分析を行った結果、ゴール強奪種であるオオヨスジワタムシは、集団内に自身の占める割合が高くなるほど(即ち強奪対象の他種ヨスジワタムシが少なくなるほど)、体サイズ(6形質の第一主成分)に大きな正の選択を受けることが判明した。体サイズと同様、口針の末端節もアブラムシ集団内でのオオヨスジの割合が上昇するのに伴って強い正の選択を受けていた。口針はゴールをめぐる闘争の際、競争相手を刺突する武器として利用される。選択圧と形質の相対サイズの間には多くの場合相関がみられなかったが、口針と前脚脛節については選択圧との間で正の相関がみられた。 オオヨスジの寄生性の起源については、熊本県、長野県、千葉県、山形県、宮城県、北海道各所でDNA抽出用のサンプルを採集した。各集団で約20~40個体についてCOⅠのシーケンスを行い、現在宮城県と北海道のサンプル以外は分析を終えている。抽出とシーケンスに使用した個体はプレパラート標本とし、COⅠ配列と形質サイズの相関を検討できるよう準備を整えた。サンプルの一部を分析したところ山形県では体サイズの異なる二つの遺伝子型が存在し、しかも集団間でその存在割合が異なっていることが判明している。
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