研究課題/領域番号 |
15J00743
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真島 剛史 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ヘムタンパク質 / 亜鉛ポルフィリン / 亜鉛クロリン / タンパク質再構成 / 光増感色素 / エネルギー移動 / 人工光捕集系 |
研究実績の概要 |
天然の光化学系は、複数の光増感色素が多数集積した光捕集系を有している。この光捕集系が太陽光エネルギーを反応中心へ集約することで、効率的な光反応を達成している。本研究では天然の光捕集系を模倣した、光捕集能を持つ色素集積系の構築を試みた。 本研究課題では、人工的に光捕集系を構築するために、単純な構造を持つ環状六量体ヘムタンパク質(HTHP)に着目した。HTHPが有する環状に並んだ六つのヘム分子を、再構成法により光増感色素である亜鉛ポルフィリン(ZnPP)、並びに亜鉛クロリンに置換することで、ヘムポケットを用いた色素の環状集積を達成した。次に、過渡吸収スペクトル測定、並びに蛍光消光測定から、集積した色素間のエネルギー移動が確認されたことから、本系が光捕集能を持つことが示された。 天然の光捕集系は、複数の色素を組み合わせることで、可視光領域における幅広い領域の光の捕集を可能にしている。そこで、捕集可能な波長領域の拡大を指向し、色素であるフルオレセインを、HTHPを用いた色素集積系に修飾した。具体的には、HTHPへシステイン残基を変異導入し、システインとマレイミドのカップリング反応により、フルオレセインをHTHPへ結合した。その後、再構成法を用いてHTHPのヘム分子を亜鉛ポルフィリンに置換し、幅広い可視光を吸収できる色素集積系を構築した。蛍光測定から、フルオレセインから亜鉛ポルフィリンへのエネルギー移動を確認し、本系が可視光領域に広い吸収帯を持つ光捕集系であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、人工光捕集系構築の素材として、環状六量体ヘムタンパク質(HTHP)を用いることで、色素の環状集積化を達成した。HTHPは海中のバクテリアから発見されたタンパク質であり、約53 kDaと比較的小さなタンパク質である。また、1.8 nmの金属-金属間距離で等間隔かつ環状に並んだ六つのヘムを持つ。このヘムを再構成法により光増感色素であるZn protoporphyrin Ⅸ (ZnPP)に置換することで、HTHPのヘム結合部位を用いた光増感色素の環状集積を達成し、集積された色素間でのエネルギー移動を確認した。 また、構築した系の光捕集能を向上させるために、亜鉛ポルフィリンに対してエネルギードナーとなる光増感色素として、フルオレセインの共有結合的導入についても取り組んでいる。具体的には、システインを導入したHTHPを、組み換え大腸菌を用いて発現し、イオン交換カラムを用いて精製を行い、得られたHTHPを、DTTを用いて還元した。次に、フルオレセイン-5-マレイミドを、マレイミドとチオールのカップリング反応を利用してHTHPへ導入した。サイズ排除カラムを用いて精製を行い、フルオレセインを有するHTHP (Flu-HTHP)を得た。また、MALDI TOF MSよりHTHPの単量体当たり1分子のフルオレセインが結合していることを確認した。次に、酸性条件下で2-ブタノンを用いて、Flu-HTHPのヘム分子を抽出し、透析により中和した後にZnPPを挿入することで、ZnPPを含む再構成タンパク質(Flu-rHTHPZnPP)を得た。蛍光スペクトル測定より、Flu-rHTHPZnPPにおいて、フルオレセインから亜鉛ポルフィリンへのエネルギー移動が確認されたことから、Flu-rHTHPZnPPは幅広い可視光を吸収できる色素集積系であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、本系のさらなる光捕集能の向上を志向し、亜鉛ポルフィリン(ZnPP)に対して、アクセプターとなる色素であるTexas Redを導入した系の構築を試みる。具体的には、Texas Red 1分子とフルオレセイン5分子が結合したHTHPを調製し、hemeをZnPPへ置換することで、3種類の色素が集積された系 ((Flu)5-Tex-rHTHPZnPP)の構築を行う。 (Flu) 5-Tex-rHTHPZnPPにおいては、6分子のフルオレセイン、並びに5分子のZnPPに吸収された光エネルギーが1分子のTexas Redに捕集されることが期待される。系の評価については、励起スペクトル測定、蛍光寿命測定を含む光化学測定を行い、系中における色素間のエネルギー移動効率についても考察する予定である。 また、タンパク質の集積化による、大規模光捕集系の構築を志向し、DNAを用いた集合体の構築にも取り組む。DNAを用いたタンパク質集合体の構築法について学ぶため、アイントホーフェン工科大学(オランダ)のBrunsveld教授のもとに3ヶ月間の留学を予定し、計画中である。また、HTHPのみの集合体に加え、蛍光タンパク質を組み合わせた新規光捕集系の構築にも取り組みたいと考えている。
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