天然の光化学系は太陽光エネルギーを利用して効率的に光反応を行っている。中でも、光捕集系は、エネルギー密度の極めて低い太陽光エネルギーを用いて、多電子を必要とする酸化還元反応を実現するためのアンテナ部分である。この天然の系に倣い、太陽光で駆動する効率的な光触媒の開発に向けて、人工的な光捕集系の構築とその応用が求められている。 これまでに我々は、人工光捕集系の構築を指向し、環状六量体ヘムタンパク質(HTHP)を基盤として、光増感色素である亜鉛ポルフィリン(ZnPP)の環状集積化を達成している。また、集積化されたZnPP間でのエネルギー移動についても報告している。 本年度は、光捕集能のさらなる向上を指向し、HTHPへ複数種類の色素の集積化を試みた。具体的には、HTHPにシステイン残基を変異導入し、マレイミドとチオールのカップリング反応を用いて、ZnPPに対してそれぞれドナーおよびアクセプターとなる色素であるFluorescein-5-maleimide (Flu) およびTexas Red C2 maleimide (Tex) を導入した。得られた色素集積体において、捕集可能な波長範囲の可視光領域全域への拡大と、光励起エネルギーのアクセプター分子への捕集を確認した。さらに、集積化された色素間におけるエネルギー移動の機構と効率について蛍光スペクトル、励起スペクトル、蛍光寿命の各測定結果により解明した。
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