1 本研究の背景・目的 溶接構造物の種々の構造性能に影響を及ぼす溶接残留応力の評価は構造信頼性を確保する上での重要な技術課題の1つであり,その生成メカニズムの解明が望まれている.残留応力の生成メカニズムについて議論する上でコンピュータシミュレーションを活用した数値解析は有効な手法である.しかし,溶接中の様々な現象を現状の数値解析手法に完全にフィットするようなモデルで表すことは極めて困難である.そのため,残留応力の生成メカニズムについて正確な議論するためには,溶接中の過渡的な応力挙動を実験的に評価する必要がある.特に,溶接後の冷却過程に生じる相変態は残留応力に大きく影響することから,相変態中の応力挙動をリアルタイムに観察することが望まれる.そこで本研究では,溶接過渡応力を実験的に評価するため,放射光を用いたin-situ計測システムを大型放射光施設SPring-8に構築し,溶接過渡応力の評価を試みた. 2 実験結果 溶接用圧延鋼材SM490Aを用いた試験において,冷却された後の応力値は実験室X線による測定結果と良好に一致しており,構築したin-situ計測システムにより実験室X線とほぼ同じ精度で応力評価できていることが示された.さらに,相変態時にはオーステナイト→フェライト変態過程におけるオーステナイト相とフェライト相の応力をそれぞれ独立して評価できていた.次に,冷却時の相変態中の応力変化に注目すると,オーステナイト→フェライト変態が始まるとともに,オーステナイト相に引張応力が,フェライト相に圧縮応力が加わっていることが確認できた.これらの挙動は,各相の機械的特性や相変態に起因した相応力の挙動と合致していた. 以上のように,放射光を用いたin-situ計測技術を用いることで,溶接中の相変化と応力変化を同時に評価することができ,相変態中の応力変化を実験的に評価することができた.
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