研究課題/領域番号 |
15J00770
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高田 一輝 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | バイオオーグメンテーション / 膜分離活性汚泥法 / 難分解性有機物 / アルキルフェノール類 / 微生物群集構造 / 炭素源資化能 |
研究実績の概要 |
本研究では、膜分離活性汚泥法(MBR, membrane bioreactor)という方式で合成下水を処理するラボスケールリアクターに対して、バイオオーグメンテーションを適用することの実現可能性を検証する。ここで、バイオオーグメンテーションとは、下水中の難分解性物質の分解等を企図して、これに資する有用な微生物を外部から排水処理リアクターへ導入することをいう。この際、導入された微生物が、排水処理リアクターに土着の微生物によって深刻な淘汰や阻害を受けた場合、企図された機能を発揮することができない。したがって、導入された微生物がその後どのような動態を示すかについての知見を得ることが研究の最終目的である。 本年度の実績としては第一に、フラスコスケールの試験によってSphingobium fuliginis OMI(OMI株)の有用性を実証した点が挙げられる。OMI株は難分解性有機物4-tert-ブチルフェノール(4-t-BP)を単一の炭素源として増殖することが可能な微生物であり、研究計画の段階より、排水処理リアクターに導入すれば4-t-BP分解の機能を付与することができると予想していた。しかしながら、これまでにOMI株の4-t-BP分解が確認されたのは、4-t-BPのみを炭素源とした場合などに限られており、下水に含まれているような易分解性有機物が混在する環境下においても4-t-BPが分解されることは確認されていなかった。そこで、4-t-BPと易分解性の有機物が混在する環境下においてOMI株を培養したところ、このような条件でも4-t-BPの分解が確認されることが明らかになり、OMI株をバイオオーグメンテーション試験に用いることができる可能性を示せた。また第二に、試験に用いるラボスケール排水処理リアクターの運転を試験的に開始し、実験に際して必要な備品や操作方法の知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
バイオオーグメンテーションに用いる微生物の検討については、これをほぼ終えることができた。排水処理リアクターに導入する微生物の候補であったOMI株に対してフラスコスケールでの試験を行い、易分解性の有機物が混在する条件下においても4-t-BPを分解しうることが実証できたことで、その有用性を確認することができた。 次いで、バイオオーグメンテーション試験を実施する際や、その結果を考察する際に必要となる、OMI株についての基礎的な知見については、フラスコスケールの試験によって収集を続けている。本年度に得ることができた知見としては、たとえば、OMI株の基質利用特性が挙げられる。ここでは、消費された基質の炭素重量に対する増殖した菌体重量の比である菌体収率という値を用いて、本研究で用いる合成下水中の易分解性有機物と4-t-BPの利用特性を比較した。その結果、合成下水中の易分解性有機物を基質としてOMI株を培養した場合の菌体収率は4-t-BPのおよそ概ね二倍であり、やはり易分解性有機物のほうが菌体の増殖用いやすいことが明らかとなった。 上記のようなフラスコスケールの試験と並行して、ラボスケールの排水処理リアクターについても、試験的な運転を開始した。その結果、生物処理槽内のpH変動が激しくpH調整のための備品と試薬を必要とすることや、当初計画していた合成下水の濃度が低く生物処理槽内の微生物濃度を充分に高めることができないことなど、計画の問題点が明らかになり、それらに対処することとなった。明らかになった問題点に対する処置は概ね終えることができたが、ろ過膜の目詰まり(ファウリング)など、対応しきれていないトラブルも若干残っており、さらなる知見の集積が必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
バイオオーグメンテーション試験を行う際に必要となる知見の集積は、今後も継続して行う。たとえば、本研究で用いる合成下水を用いて培養されているOMI株の増殖特性が、pHや温度、塩濃度等の環境条件によってどのように変化するかについての知見を得ることは、バイオオーグメンテーション試験の条件を考察する際に有用であると考えられる。また、これまでに行ってきた実験結果についても、再現性のある結果であることが充分に確認されていないため、繰り返し行ってこれを確認する方針である。 また、バイオオーグメンテーション試験を行う際には、排水処理リアクターに導入したOMI株の定量を行う手段が必須となる。定量は、リアルタイムPCR(polymerase chain reaction)を用いて行う予定であるため、OMI株を検出するためのプライマーを設計する必要がある。今後は本研究室が保有するOMI株のゲノム情報を用いて、これを行うことを予定している。 ラボスケールの排水処理リアクターに関しては、概ね必要な事項を確認することはできたため、実際に4-t-BPを含む合成下水を処理するリアクターとして運転し、さらに培養したOMI株を導入し、その動態を追跡するために必要な事項の確認に入る。具体的な内容は、採取した活性汚泥サンプルの微生物群集構造解析および炭素源資化特性の調査、ならびにリアルタイムPCRの実施を想定している。次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析も視野に入れている。 これに加えて、MBRを運転する上で重要となるファウリングについての知見収集も別途行っていく。具体的には、関連学会への出席や、カリフォルニア大学の専門研究者訪問を通してこれを推進する予定である。
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