研究課題
本研究では、膜分離活性汚泥法(MBR, membrane bioreactor)を用いる排水処理装置に対してバイオオーグメンテーションを適用することの実現可能性を検証する。バイオオーグメンテーションとは、汚濁物質を除去するために外部から有用な微生物を導入する手法であり、難分解性物質を含む排水処理のための活性汚泥法においても効果が期待できる。従来の標準活性汚泥法においては、導入菌が処理水と共に流亡してしまうといった問題点が挙げられていたのに対し、MBRでは分離膜によってすべての活性汚泥微生物を処理槽内に留めることができ、より効果的なバイオオーグメンテーションが実現可能だと考えられる。本年度の研究では、難分解性物質を処理する二台のラボスケールMBRを運転し、一方をバイオオーグメンテーション実施系、他方をコントロール系として、処理成績の比較を行った。昨年度に引き続き4-tert-ブチルフェノール(4-t-BP)を処理対象の難分解性物質として定め、導入菌としてこれを単一炭素源として資化可能なSphingobium fuliginis OMI(OMI株)を用いた。その結果、コントロール系では汚泥が馴養され4-t-BPの分解が開始されるまで一カ月程度を要したのに対し、バイオオーグメンテーション系ではOMI株導入から一週間程度で流入水中の4-t-BPが検出下限以下まで分解されることが確認された。またOMI株のC23O遺伝子の定量を行ったところ、バイオオーグメンテーションの後、一カ月程度に亘ってOMI株がリアクター内に残存することも明らかになった。以上のことから、MBRへのバイオオーグメンテーション適用は有望な手法であると結論することができ、今回の成果は次年度の国際学会にて発表することを予定している。
2: おおむね順調に進展している
現在までには、4-t-BPを用いたラボスケールMBRに対するOMI株のバイオオーグメンテーション試験が完了し、その効果を検証することができている。実験には、二台のMBRと平膜モジュールを用いた。種汚泥には大阪府内の下水処理場より採取した余剰汚泥を用い、連続式で合成下水を供した。水理学的滞留時間および汚泥滞留時間はそれぞれ12時間および50日とした。水温とpHはそれぞれ30℃、6.0-7.0で制御した。活性汚泥浮遊物濃度は75日のスタートアップ期間において、8,000 mg/Lまで増加させた。スタートアップ期間の後、それまでの合成下水に10-20 mg/Lの4-t-BPを混入させ始めると同時に、LB培地で培養したOMI株を10 mg-cell/Lの割合で一方のMBRに添加した(オーグメンテーション系)。他方のMBRにはバイオオーグメンテーションの操作は行わなかった(コントロール系)。各MBRからの処理水に含まれる4-t-BPの経時変化を見たところ、オーグメンテーション後1日目から4日目にかけて、4-t-BP濃度は双方のリアクターで次第に増加しており、コントロール系ではさらに続けて上昇して流入水の水準にまで達した。39日目以降では、コントロール系の処理水に含まれる4-t-BPは検出下限値以下(< 1 mg/L)となった。このような推移は、4-t-BPへの活性汚泥の馴養には概ね一カ月程度必要となることを示唆している。一方、オーグメンテーション系については、処理水中に含まれる4-t-BPの濃度は7日目から35日目まで常に検出下限値以下となっていた。しかしながら、36日目以降の処理水からはしばしば4-t-BPが5 mg/L以上の水準で検出されていた。これらの結果は、MBRへのバイオオーグメンテーションは数日でその効果を発揮し、概ね一カ月程度安定的に維持されることを示唆した。
本年度のバイオオーグメンテーション試験において、4-t-BPで馴養したコントロール系のMBR活性汚泥から、4-t-BP 分解能力を有する3株(Arthrobacter sp.、Microbacteria sp.、Pseudomonas sp.)が単離された。次年度には、これら3株に対して4-t-BP分解速度や増殖速度などの観点から特徴づけを行い、OMI株との比較を行うことを予定している。また、同様に本年度のバイオオーグメンテーション試験において、オーグメンテーション系からOMI株が流出した原因として、膜ファウリング(閉塞)が関与するものと推測している。これは、オーグメンテーション系では膜間差圧の上昇がコントロール系に比べて頻繁に見られたという観察から、OMI株がMBRの分離膜上におけるバイオフィルム形成に何らかの役割を果たしていると考察したことに依る。したがって次年度には、MBR特有の現象である膜ファウリングについても知見を収集していく方針である。加えて、活性汚泥の微生物群集構造をモニタリングする手法として、これまでは末端断片長多型法(T-RFLP, Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism Analysis)を用いてきたが、より詳細な知見を得るため、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析を次年度に行うことも予定している。これらの研究で得られた知見は、次年度に開催される国際学会等を通して、一般に公表する予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Journal of Bioscience and Bioengineering
巻: 122 ページ: 97-104
10.1016/j.jbiosc.2015.12.016