多くの系統学的研究にも関わらず、ゴキブリ目内の類縁関係、さらに高次系統の網翅類や多新翅類の系統進化に関する議論は意見の一致をみないままである。比較発生学的アプローチは、昆虫類の系統学的議論やグラウンドプランの構築において最も有効な方法の一つである。ここにあって、予備的研究では、「胚運動」という観点から、網翅類は「網翅類=カマキリ目+【オオゴキブリ亜目+(ゴキブリ亜目+シロアリ目)】」と理解できることを示唆した。この理解を作業仮説として網翅類、多新翅類の系統学的議論を発展させるには、ゴキブリ目が大きく二つに分けられるという「ゴキブリ目の2亜目体系」の妥当性の検証が重要である。本研究課題の目的は、ゴキブリ目のグラウンドプランおよび目内の系統学的体系を再構築し、ひいては網翅類、多新翅のグラウンドプランと系統進化の再構築に資するべく、上述の「ゴキブリ目の2亜目体系」を比較発生学的に検証することにある。以上背景から、ゴキブリ目の網羅的比較発生学的研究を計画した。 本年度は、昨年度までのメインテーマであったムカシゴキブリ科の発生学的研究について、その外部形態データの補完が完了したため、国際誌への投稿に向けて論文の執筆に努め、現在投稿中である。また当グループの卵、胚の内部形態等のさらなる詳細な検証のため、理化学研究所SPring-8にて、シンクロトロンμCTを用いた試料の非破壊検査および解析を行った。 さらに、ムカシゴキブリ科のみならず、新たに、ゴキブリ目で処遇が最もミステリアスとされているグループ、ホラアナゴキブリ科を検討対象に含め、当グループの一種である、Nocticola aff. adebrattiを材料に、すでに構築済みの累代飼育系を基に、発生学的データの収集に努め、本種の生殖行動、卵形態、胚発生の観察を順次進めた。現在、国際誌へ論文を投稿する準備を進めている最中である。
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