研究課題
我が国において急性・慢性心不全の発症数は増大の一途をたどっている。その管理、予後予測の改善は患者予後の改善のみならず医療経済的観点からも危急の問題である。このような目的で開発された心不全関連のバイオマーカーは診断、管理、予後予測に重要な役割を果たしている。しかし、その性能には改善の余地があると考えられ多方面より新規のバイオマーカーの検索が行われている。近年、血中に短鎖のRNA分子が安定して存在していることが知られており、各種疾患においてバイオマーカーとなることが知られている。今回我々は心不全の急性増悪およびその寛解の過程を通じて病態の差分を観察することにより、心不全の病態に関与しいているバイオマーカーを探索する計画を立て実行した。昨年度までの研究により心不全患者の血清において病態変動に伴って変動する短鎖RNAのスクリーニングに成功した。本年度はこのRNAの変動の個人レベルでの確認、定量を行った。この結果と臨床情報との照合により、血清の短鎖RNAは心不全による臓器障害を反映して変動していることが確認された。血液中の短鎖RNAがこのような短期間で変動することは今まで示されていなかった。これらの知見から、血中の短鎖RNAは心不全の病状を鋭敏に反映するバイオマーカーとなる可能性が示唆される。今後、違う条件や患者集団においてさらなるスクリーニングを行うことでこの他の病的状態を反映するバイオマーカーをスクリーニングできる可能性を考えている。
2: おおむね順調に進展している
心不全関連バイオマーカーのスクリーニングにおける検出力を向上させるために病態が急激に悪化する心不全の急性増悪期に注目してサンプル収集を行った。これらのサンプルを用いて網羅的な血清中の短鎖RNAのスクリーニング実験を行ったところ、病態に反応して短期的に変動するmicroRNAのスクリーニングに成功した。個人レベルでの血中RNAの定量によってもこの変動は確認された。この変動と臨床情報との統合解析を行ったところ、血清中の短鎖RNAの変動は急性心不全の臨床経過中に生じる肝障害の指標と連動していることを指摘することができた。これは新規の知見として欧州の心臓病学会誌に投稿し掲載された。 臓器障害は近年心不全の重要な因子であると認識されつつあり、血中の短鎖RNAをこのような臓器障害を反映するマーカーとして用いることができる可能性を示唆する知見であると考えている。現在は今回見られた病状に付随するmicroRNAの変動の生理的意義の検討のため、肝障害モデルや心不全モデルを用いて検討を進めている。
これまでの研究で明らかになった血中microRNAの心不全の病態に応じた変動に生理学的意義がについて引きつづき検討を行っていく。具体的にはモデル動物を用いて肝障害や心不全を誘導し、血中microRNAの変動を確認する予定としている。血中microRNAの変動が確認されれば、これらが多臓器への浸潤が見られるかどうかについて検討を進める。また培養細胞に対するmicroRNAの投与がその表現形に影響を与えるかどうかの検討も予定している。また、今回スクリーニングに用いた高速シーケンサのデータの再解析により、心不全患者の血中に異種由来のRNAが多く含まれていることがわかった。特に近年注目されている腸内細菌叢との関係も示唆されるデータであり興味深い。このような観点からの解析はこれまで少なく公共データ等を交えたさらなる解析によって新規のバイオマーカーの発見に繋がる可能性がある。有望な候補配列についてはストックしているサンプルを用いてこれらの変動についても検討を行い、病態との関連の検討を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
ESC Heart Failure
巻: 4 ページ: 112-121
10.1002/ehf2.12123