本年度は,これまでの研究で作製法を確立した階層構造化超撥水・超撥油Al表面の耐久性向上を目指し,市販の製品に応用されており,かつ耐候性に優れるポロテトラフルオロエチレン(PTFE)による階層構造化Al表面のコーティングを試みた.PTFEコーティング剤(旭硝子株式会社)に浸漬して十分に水洗した後,423~523 Kで加熱処理するプロセスを5回以上行うことで超撥水性が得られた.しかしながら,この超撥水性は数時間の放置で劣化する.一方,コーティング剤に浸漬後,水洗をせずに熱処理した場合,一度のコーティングプロセスで超撥水性が得られ,長時間放置しても劣化しなかった.なお,両試料とも菜種油に対しても撥油性を示さなかった.表面形態をSEMで観察すると,表面は粒径1 μm程度のPTFE由来と考えられる粒子で覆われていたが,同時にピット形態が埋没している様子も観察された.これが,高い撥油性が得られなかった原因と考えている. また,近年新たな高耐久性撥水・撥油性コーティングとして注目を集めている,食虫植物の内壁の構造を模倣したSLIPS の耐久性に対する基板形態の影響について検討した.階層構造化Al表面にポリフルオロアルキルエーテル系潤滑油Krytox®(GPL100,DuPont社)を塗布した表面に水,ヘキサデカン,エタノール,オクタンといった液滴を滴下すると,潤滑油層の存在によりわずかな傾斜ですべての液滴が滑落した.この潤滑油の大気中および水中における保持性を,階層構造・エッチピット構造のみ・孔径大多孔質構造・孔径小多孔質構造をそれぞれ有する試料に対し評価した結果,大気中では多孔質構造が最も高い保持性を示したのに対し,水中では階層構造の保持性が最も高い結果となった.なお,作製したSLIPSは潤滑油の低い流動点により高い難着氷性を示し,着氷防止表面としての応用の可能性が示唆された.
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