研究課題/領域番号 |
15J00821
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松尾 恵梨子 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 葉緑体置換 / 遺伝子水平転移 / 進化 / 分子系統解析 / クロロフィルa / 細胞内共生 |
研究実績の概要 |
1.緑色渦鞭毛藻におけるChl a合成系遺伝子配列探索 緑藻由来の葉緑体をもつ渦鞭毛藻(以下、緑色渦鞭毛藻)鶴岡株および室蘭株における網羅的発現遺伝子データの整備に着手した。まず両種の大量培養を行い、RNA抽出を行うのに十分な細胞量を回収した。得られた精製RNAサンプルを次世代シーケンサー(Illumina Hi-seq2000)による網羅的発現遺伝子解析に供した。所属研究室の計算機を使用して配列アセンブリソフトウェアTrinityによる遺伝子配列データの復元を行った結果、鶴岡株では約393,000コンティグ配列、室蘭株では約286,000コンティグ配列を取得した。復元した網羅的発現遺伝子配列データに対し既知Chl a合成系遺伝子(計12遺伝子)をクエリ配列として相同性検索を行ったところ、両種からはそれぞれ8遺伝子の配列データを検出した。この遺伝子レパートリーはChl a合成系を再構築するのにほぼ十分なものであった。 2.緑色渦鞭毛藻におけるChl a合成系遺伝子の系統解析 続いて、鶴岡株および室蘭株がもつChla合成系遺伝子の起源を推測するために最尤法およびベイズ法による分子系統解析を行った。その結果、両種のChl a合成系には共生藻となった緑藻から獲得した遺伝子の他に、渦鞭毛藻とも共生藻とも系統的に離れた藻類と起源を共有する遺伝子が複数存在することが明らかになった。このような特徴は本研究前年度の調査から緑色渦鞭毛藻Lepidodinium1属において既に見出されていたものであったが、当時は比較対象となる緑色渦鞭毛藻種のデータが他に存在せず進化傾向として議論するに至らなかった。しかしながら本年度鶴岡株および室蘭株から得られた結果と併せて考えることで、獲得経緯の不明な遺伝子について「緑色渦鞭毛藻におけるChl a合成系遺伝子進化の傾向」と一般化して解釈することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の骨子は葉緑体置換の起きた渦鞭毛藻種のサンプル数を可能な限り確保することにある。調査対象とした渦鞭毛藻種には葉緑体の起源となった共生藻が異なる系統を網羅しており、これには各渦鞭毛藻種のChl a合成系進化に対し共生藻が与えた影響の差異を理解する狙いがある。そうした意図のもと本年度までに申請者は計7渦鞭毛藻種(内訳:ハプト藻由来葉緑体をもつ2種、緑藻由来葉緑体をもつ3種、珪藻由来葉緑体をもつ2種)についてそれぞれChl a合成系遺伝子の起源解析を完了した。この成果をもって申請者は調査したChl a合成系遺伝子の起源について1.共生藻の種類が異なる種間における比較解析、および2.共生藻の種類が同じ種間における比較解析の2点を行うことができた。その結果申請者は共生藻の種類とChl a合成系の進化に一定の傾向が存在することを見出し、研究当初の狙いを達成しつつある。以上の理由から、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は調査対象とした渦鞭毛藻種のうち残りの2種であるTakayama属渦鞭毛藻(Takayama helixおよびTakayama tasmanica、いずれもハプト藻に由来する葉緑体をもつ)の網羅的発現遺伝子データ取得に着手する。現在、両種の培養を開始した段階である。細胞が順調に増殖した場合は大量培養に移し、十分な細胞量が回収できた段階でRNA抽出を試みる。次世代シーケンスを行い網羅的発現遺伝子データを取得し、得られたデータ中からChla合成系遺伝子配列を探索する。本年度までに構築した系統解析用データセットにTakayama属の配列を追加し、最尤法およびベイズ法による系統解析を実施する。その他は当初の研究計画通り進める。
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