昨年度の研究において、17世紀メネストリエが模倣としての舞踊概念を確立し、これが18世紀舞踊論の起源であることを指摘した。(以上の成果は今年度『日本18世紀学会年報』に投稿した。)今年度は、模倣としての舞踊概念が17世紀から18世紀にかけて変容し、これが18世紀舞踊理論における独創性概念成立の契機であることを解明した。 17世紀にメネストリエは「諸事物の本性(Nature des choses)」の模倣を主張し、ここで nature とは被造物の固有性をさす。一方で18世紀になるとカユザックとノヴェールは「自然の模倣(imitation de la nature)」を主張する。ただし両者ともに、模倣対象である自然に多様性と独創性の契機を認め、その模倣表現は自ずと独創的になる。このように、なるほどカユザックもノヴェールも模倣芸術理論を標榜するものの、それら理論には、産出的自然概念を契機に、模倣から創造性/独創性へという近代における芸術概念のパラダイムシフトが潜在していることを解明した。(以上の成果は「第18回オックスフォード・ダンス・シンポジウム」において口頭発表を行った。) 以上の18世紀舞踊理論における独創性概念の成立にともない、「観客」概念が浮上していることも明らかになった。なぜなら、創造された舞踊が真に独創的か否の規範は、自然ではなく観客が担うからである。このように、18世紀舞踊理論には、多様な自然の模倣を契機に、独創性概念及び観客概念が成立していることを指摘した。(以上の研究成果は博士論文「17-18世紀フランスにおける模倣芸術としての舞踊概念の系譜と変容―メネストリエ、カユザック、ノヴェールを中心に―」として大阪大学に提出し、博士号を授与された。また2017年5月にパリ第三大学で行われる研究集会「18-19世紀の文学、絵画、舞踊」において口頭発表する予定である)
|