平成28年度は,平成27年度までに明らかとなった400m走のレースパターンに関する横断的な知見と対比させながら,パフォーマンス向上に伴うレースパターンの変化について縦断的な検討を行った.400m走のパフォーマンスが向上する際,100-300m付近の走スピードおよび200-300m付近のステップ頻度の向上が生じることが示された.また,タイプ別の比較では,「後半型」は,レース前半から中盤における走スピードが,「前半型」は,レース中盤から後半における走スピードが,それぞれ向上していた.すなわち,レースパターンのタイプによって,パフォーマンス向上の際に生じるレースパターンの変化は異なり,タイプに応じたレース全体の中で相対的に劣る局面が改善される形でレースパターンが変化し,パフォーマンスが向上することが示された.また,パフォーマンスおよびレースパターンの変化と,その間の競技者の意識の変化やトレーニングコンセプトについて検討を行ったところ,競技者は,トレーニングの過程において,理想とするレースパターンや,その達成のための主観的なペース配分,技術,体力および戦術的なトレーニング方法を変化させており,その結果,レースパターンが変化することでパフォーマンスが向上することが示された. 本研究の結果から,400m走のレース分析によって個々のレースパターンの特徴を適切に評価することで,個々の競技者の特性に応じたテーラーメイド型コーチングを行うことが有効である可能性と,そのための基礎的な知見を示すことができた.一方で,当初の最終目的であったレースパターンのタイプ別のテーラーメイド型トレーニングを体系化するまでには至らなかった.本研究で示されたレースパターンおよび関連する諸要因のデータおよび事例を継続的に収集し,帰納的に理論構築することで,テーラーメイド型トレーニングモデルを体系化することが今後の課題である.
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