平成29年度は、運動時の循環反応やその個人差に赤血球由来の局所性血管調節がどのように関与するか、また、持久的トレーニングにより高まる体力指標や循環調節機能の指標が循環反応の個人差とどのように関係するか検討することを目的とし、末梢部位への血管作動薬投与や各種運動モデルを用いた実験を行った。 1.健康な若年男性6名を被験者とし、赤血球由来の血管拡張反応を模してアデノシン三リン酸(ATP)の大腿動脈投与を行い、運動時と同様の下肢血流量増加を引き起こした時の中心循環動態を調べた。その結果、ATP投与時には下肢血流量の増加の程度に依存して心拍出量が増加すること、また、この反応は左心室拡張末期容積の増加に伴う1回拍出量の増加によって起こること示された。このことから、赤血球由来の血管拡張反応による左心室充満血液量の変化は、運動中の心拍出量応答を決定する主な要因の一つである可能性が示唆された。 2.鍛錬者と非鍛錬者を含む健康な若年男女30名を対象とし、静的ハンドグリップ運動を行ったときの循環反応の個人差と、全身持久力の指標(最大酸素摂取量)との関係性を調べた。その結果、ハンドグリップ運動中の循環反応の個人差は最大酸素摂取量との間に関係がみられなかったことから、本被験者集団における全身持久力の差は小筋群運動での循環反応の個人差の主な決定要因ではないことが示唆された。一方、動脈圧受容器反射機能(大腿部カフを用いて運動中に一過性の血圧低下を引き起こした際の循環反応により評価)との関係性も調べたところ、動脈圧受容器反射による心拍調節機能が高い者ほど心拍出量の増加が小さく、動脈圧受容器反射による血管調節機能が高い者ほど末梢血管抵抗が大きく増加するという関係性がみられた。このことから、運動中における動脈圧受容器反射機能の差は、運動に対する心拍出量や末梢血管抵抗の反応の個人差に関与することが示唆された。
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