研究課題
本研究の目的は、高速点火核融合実験に於いて核融合反応数の時間履歴(燃焼履歴)を計測し、核融合燃料の爆縮及び加熱過程に於ける物理モデルの検証を可能にする事である。その為には燃焼履歴計測の為には時間分解能<20 psを有する高速応答中性子計測器が必要であり、本研究では高速応答性を有する酸化亜鉛(ZnO)結晶に着目し、上記要求値を満たす高速シンチレーターを開発する。27年度は年次計画に従って「ZnO薄膜作製方法」の検討を行った。スピンコート法及びバーコーター法により、必要な膜厚のZnO薄膜を作製することに成功し、発光量・発光時間測定を行った結果、発光時定数に関しては無ドープのZnO薄膜で100ps程度の良好な値が得られた。今後これらのサンプルにFe等の元素をドープすることによって更に発光時間を短くする事が可能であると期待している。一方で上記の薄膜サンプルは現状では透明度が低く、十分な発光量を得られていない為、今年度は引き続きサンプルの透明度の改善に注力する。また本研究で開発する燃焼履歴計測器は、実際の核融合実験で発生するようなパルス中性子源に対する動作試験が必要となるが、爆縮を伴う現状の核融合実験では爆縮レーザーのビームバランスによって中性子発生数(イールド)が大きく変動する状況である為、シンチレーター開発と並行して計測試験用の高輝度パルス中性子源の開発に取り組んだ。開発した手法は爆縮を用いずCD球殻燃料の内壁に一方向から高強度レーザーを照射し、燃料中心部に数keVの高温プラズマを生成することで高イールドの核融合中性子を生成するというものである。これにより1e7-8の中性子イールドの安定供給が可能になり、レーザー強度や燃料球のサイズを調整することで必要な中性子イールドを出せるようになった。
3: やや遅れている
当初の研究計画ではドープ元素の選定までを平成27度中に行う予定であったが、現状ではまだZnOの薄膜作製法の改良に注力している状況である。ZnO薄膜作製方法として、スピンコート法及びバーコーター法を検討した。いずれの方法もZnOの微粒子を分散させた液体をガラス等の基板に薄く塗布し、乾燥または焼結させることで薄膜を生成する。これらの方法で厚さ数ミクロンのZnO薄膜を作製する事が出来るようになったが、現状では出来上がったサンプルの透明度が極めて低く、計測器としての要求値を満たす十分な発光量を得られていない。透明度の低い原因はZnO粒子の濃度が高すぎる事、乾燥・焼結の過程で溶液に色が付く事などが考えられ、現在は溶液濃度や粘度を調節し、透明度の改善を試みている。しかしながら一方で、27年度は中性子計測試験の為の中性子源開発に成功し、シンチレーター以外の計測器構成についても概ね目処が立った為、シンチレーターの組成が決まり次第燃焼履歴計測に臨める状態である。
平成28年度は、27度に続きZnO薄膜の透明度改善に注力する。またFe等の元素をドープし発光寿命を低減したサンプルを作製し、レーザー励起及び放射線励起による発光寿命測定を行う。放射線励起による計測器性能評価試験を行う施設として大阪大学産業科学研究所のLINAC施設のマシンタイムが採択されており、本施設を用いて高強度X線に対するシンチレーターの発光寿命等を測定する予定である。また28年度は大阪大学レーザーエネルギー学研究センターに於いて高速点火核融合実験が5 - 7月および9 - 12月に実施される予定であり、実際の計測環境下での計測器性能試験を行う期間は十分にあると考えている。特に後半期間の高速点火実験では、高速電子による爆縮プラズマの加熱実験を本格的に行う予定である為、本計測器の活躍が非常に期待されている。
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