研究課題/領域番号 |
15J00879
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
篠原 道法 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 外国人 / ポリス / アテナイ / 墓碑 / 社会規範 |
研究実績の概要 |
伝統的に古代ギリシアのポリスの一つであるアテナイ社会は、市民の視点に偏った形で論じられがちだった。これに対して本研究は、墓碑を資料に、外国人の視点に立って彼らが社会にいかに向き合ったのかを明らかにすることで、よりアテナイ社会の実像に迫ろうとしている。 平成27年度にはまず、アルカイック期(前8世紀-前6世紀末)から前4世紀前半までの墓碑のデータの整理に基づき、同時期の社会での外国人の動向について研究を進めた。 当該時期には、前5世紀前半に消失した私人墓碑が同世紀後半に再び登場する現象がみられる。本研究では、かかる過程において市民の事例と比較して外国人の墓碑にどのような傾向が見られるのか、またそれが彼らのいかなる社会での振る舞い方を表しているのかを検討した。特に浮彫彫刻を伴う墓碑に焦点を当てて、浮彫の内容、墓碑の設置場所の時期的特徴を分析した結果、外国人は、求められる規範のあり方をめぐって市民との間に一定程度違いがあるものの、彼らと同様に社会規範に従って行動していた可能性が浮かび上がった。 続いて、次年度の研究計画として予定していた前4世紀後半からヘレニズム初期までの時期の外国人の動向の分析についても、その見通しを得るために基礎的調査を行った。墓碑の銘文の内容や装飾の有無等に注目しその時代傾向を大まかに検討した結果、同時期に動乱の生じた地域出身の外国人が多数(おそらく亡命者として)アテナイに流入しており、また各々を取り巻く社会・経済的環境に応じて、彼らは社会へと同化していた可能性が浮かび上がった。 なお以上の研究の遂行に際しては、平成27年7月29日~平成27年9月25日と平成28年2月18日~平成28年3月15日の二度に渡り、ギリシアのアテネにある研究所、British School at Athensを拠点として調査を行うとともに、同研究所所属の研究者と意見交換した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルカイック期から前4世紀前半までの時期の外国人の動向にかんして、平成27年度分として計画していたとおりに研究を完了させるには至っていないものの、British School at Athensを活用して研究を集中的に行ったことによって、確固たる見通しが得られた(その成果を、平成27年12月19日に同志社大学で開催された属州研究会で口頭発表している)。 加えて、当初平成28年度分の計画として予定していた、前4世紀後半からヘレニズム初期における外国人の動向にかんする研究についても大まかな見通しを得ることができており、これによって次年度の研究が円滑に進むことが期待される。 以上の点から、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)平成27年12月に属州研究会で口頭発表を行った時点では、アルカイック期から前4世紀前半までの時期の外国人の動向にかんして検討する際に、被葬者の立場(市民か外国人か)が明確な墓碑のみを分析対象としていた。だが、同時期の墓碑の傾向の全体像を把握するためには、身分がはっきりしない人物の墓碑や浮彫のみのものにも目を向ける必要がある。それゆえに現在、該当する事例について追加調査を行っている。 平成28年度前半には、この追加調査を完了させるとともに、その成果を平成27年度時点の研究成果と総合させて論文を執筆する。投稿先としては『史林』、『立命館文学』等を想定している。 (2)平成28年度後半には、平成27年度に実施した基礎的調査の結果として得られた見通しを踏まえて、前4世紀後半からヘレニズム初期における外国人の動向について本格的に検討し、その成果を口頭発表の形で報告する。報告の場の候補としては、同年度12月に開催予定である、立命館大学主催の立命館史学会大会、もしくは同志社大学主催の文化史学会を考えている。 なお、以上の二つの計画を遂行するために、平成28年度もBritish School at Athensを拠点として、墓碑の基礎情報の収集、関連遺跡や墓碑の実物の調査を行う予定である。
|