研究課題/領域番号 |
15J00928
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河本 佑介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ピロール・イミダゾールポリアミド / ペプチド固相合成 / DNA / テロメア / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
申請者の研究室ではこれまで疾患の治療法および遺伝子解析技術の開発を目的として、配列特異的なDNA結合分子ピロール・イミダゾール(Py-Im)ポリアミドの分子設計と固相合成法を研究してきた。Py-Imポリアミドは穏和な条件でDNA二重らせん構造の副溝に入り込んでDNAの各塩基と結合し、ピロールとイミダゾールの配列を変えることで任意のDNA塩基配列を狙うことができる。またPy-Imポリアミドと連結した蛍光基などの機能性分子は、DNAの特定配列でのみ機能することが期待される。これまで申請者らはテロメア繰り返し配列5’-(TTAGGG)n-3’を標的としたPy-Imポリアミドの合成法と、それらを用いた染色体末端テロメア領域に対する特異的な蛍光ラベル化法を開発してきた。 申請者は第1年度目において、①さらなるテロメア特異性向上のため24塩基対を標的としたタンデムテトラマー型Py-Imポリアミドの合成とそれを用いたテロメアの蛍光ラベル化、②次世代シーケンサーを用いたPy-ImポリアミドのDNA認識能の比較、③Py-Imポリアミドを用いたテロメアクロマチンの単離、に関する研究を行った。その結果①では化合物の合成とそれを用いたテロメアの染色を達成し、②では次世代シーケンサーの解析を完了してPy-Imポリアミドの結合配列に関する情報を得ることに成功し、③ではテロメア結合性タンパクを多く含む画分を得ることに成功した。 なお①と③は国立遺伝学研究所の研究グループとの共同研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究①において申請者らは、テロメア繰り返し配列中の24塩基対を標的とした、最長のタンデムテトラマー型蛍光性Py-Imポリアミドの合成に成功した。このポリアミドで細胞を処理したところ、既存のテロメアを標的としたポリアミドよりも非テロメア部位への結合によるバックグラウンドを減らし、テロメアへの特異性を向上させて蛍光ラベル化することに成功した。現在、次世代シーケンサーにより全ゲノム中におけるタンデムテトラマー型ポリアミドの結合性、配列認識性の評価を行っている。本研究はテロメア部位の機能解析や疾患の診断等への応用が期待される。 研究②において、申請者らはヘアピン型、環状型、タンデムヘアピン型Py-Imポリアミド3種類の配列認識能の比較を目的とした。申請者らはこれら3種類のポリアミドをビオチンと連結し、ランダム配列を有するDNAのプールからポリアミドに結合するDNAをビオチン・ストレプタビジン相互作用により獲得し、その配列を次世代シーケンサーで解析するという手法で実験を行い、さらに解析手法の改良を行った。その結果はポリアミドによる配列認識に関して重要な知見を与えるものであり、新たなPy-Imポリアミドの設計への応用が期待される。 研究③において、申請者らはテロメアクロマチンの単離を目的として、テロメアを標的としたPy-Imポリアミドにデスチオビオチンを連結したconjugateを合成した。これを用いてクロマチン溶液からテロメアクロマチンの単離を試み、質量分析とウエスタンブロッティングにより評価した。その結果、テロメア結合タンパクTRF1を多く含む画分を得ることに成功した。この結果はPy-Imポリアミドでテロメアクロマチンを精製できることを示唆しており、テロメアの高次構造解析への応用が期待される。 このように3件の研究について大きな進展が見られたことを踏まえ、申請者は研究が当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らはこれまで、Py-Imポリアミドの合成法の開発を行い、それを用いた生物学への応用を試みてきた。そのような応用性の向上を目指し、第1年度に得られた結果をもとにして、申請者らは以下の研究に取り組む。(A)生細胞内での機能性の向上を目指してPy-Imポリアミドの構造の改良を行う。合成したPy-Imポリアミドについては細胞染色及び次世代シーケンサーによる結合配列の同定、などの方法により評価する。(B)臨床現場での使用を指向した、蛍光ラベル化Py-Imポリアミドによる組織切片の染色法を開発する。(C)Py-Imポリアミドを用いたテロメアクロマチン精製の高純度化、及び活性を保持したままテロメア結合性タンパクを精製する方法を開発する。
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