研究課題
申請者の研究室ではこれまで疾患の治療法および遺伝子解析技術の開発を目的として、配列特異的なDNA結合分子ピロール・イミダゾール(Py-Im)ポリアミドの分子設計と固相合成法を研究してきた。Py-Imポリアミドは穏和な条件でDNA二重らせん構造の副溝に入り込んでDNAの各塩基と結合し、ピロールとイミダゾールの配列を変えることで任意のDNA塩基配列を狙うことができる。またPy-Imポリアミドと連結した蛍光基などの機能性分子は、DNAの特定配列でのみ機能することが期待される。申請者らは第2年度目において、①テロメア繰り返し配列中の24塩基対を標的としたタンデムテトラマー型Py-ImポリアミドのDNA認識能の評価、②Py-Imポリアミドを用いたヒト凍結組織切片のテロメア染色法の開発、③テロメア結合Py-Imポリアミドと光ピンセットによるG-quadruplexの解析、に関する研究を行った。①では次世代シーケンサーを用いてタンデムテトラマー型Py-Imポリアミドの結合配列に関する情報を得ることに成功した。②について、Py-Imポリアミドを用いることで、短時間でマウスおよびヒト凍結組織切片のテロメア染色に成功した。③について、テロメア部位の二本鎖・一本鎖領域の境界を標的としたPy-Imポリアミドは、その部位の構造変化を引き起こすことが分かった。なお①と②は国立遺伝学研究所のグループとの、③は米国のKent State Universityのグループとの共同研究である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究①について申請者らは、テロメア繰り返し配列中の24塩基対を標的とした、最長のタンデムテトラマー型Py-Imポリアミドのゲノム中での結合配列を次世代シーケンサーにより評価した。その結果、タンデムテトラマーはテロメア繰り返し配列中の12塩基対を標的としたタンデムダイマーよりテロメア配列認識能が高いことが分かった。申請者らはこの結果を第1年度目の結果と合わせ、Journal of the American Chemical Society誌で発表した。研究②において、申請者らはテロメアを標的としたPy-Imポリアミドを用いてマウスおよびヒト凍結組織切片のテロメア染色に成功した。さらに、腫瘍マーカーと併用して、ヒト食道がん・非がん組織切片のテロメアを染色し、Py-Imポリアミドの蛍光強度を定量した結果、腫瘍マーカー陽性細胞におけるテロメア長の短縮を確認することができた。本研究で用いたPy-Imポリアミドは、FISH法に代わる新たなテロメア標識法として臨床研究に広く用いられることが期待される。申請者らはこの結果をScientific Reports誌で発表した。研究③において、申請者らは光ピンセットを用いてテロメア部位の二本鎖・一本鎖領域の境界を標的とした化合物の評価を行った。テロメアのDNAは二本鎖と一本鎖からなり、一本鎖領域はG-quadruplex(GQ)構造を取る。本研究において、申請者らはPy-ImポリアミドをGQ結合分子PDSと連結したプローブを合成し、それがテロメアの二本鎖・一本鎖境界に結合するときの効果を光ピンセットで調べた。その結果、ポリアミド結合部位とGQとの間にループ様構造の形成が促されたことが分かった。このように3件の研究について大きな進展が見られ、また成果を複数の論文で発表できたことを踏まえ、申請者は研究が当初の計画以上に進展していると評価した。
これまでに得られた結果をもとにして、申請者らは本年度以下の研究に取り組む。(A)生細胞内での機能性の向上を目指して、Py-Imポリアミドの構造の改良を行い、生細胞内でテロメアを染色する方法を開発する。(B)テロメア以外の二本鎖DNAとGQを同時に狙ったPy-Imポリアミドの合成と、それがDNAの構造に与える影響の検討を行う。(C)これまでとは異なる構造を持つPy-Imポリアミドの合成と、それがDNAやヌクレオソームの立体構造に与える影響を調べる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (3件)
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